大阪市長に提言 校長に聞く 競争だけが教育か

大阪市淀川区の市立木川南小学校(児童数140人)の久保敬校長(59)が、松井一郎市長に送った教育行政への提言書が注目されている。3回目の緊急事態宣言で市長がオンライン授業で緊急事態宣言に対処する方針を打ち出したことで、「学校現場は混乱を極めた」と指摘。さらに、子どもが過度な競争にさらされている現状を憂え、「競争に打ち勝った者だけが『がんばった人間』として評価される。そんな理不尽な社会であっていいのか」と問いかける。松井市長は処分の可能性にも言及したが、共感の輪は全国に広がっている。提言の真意について、久保校長に話を聞いた。

 

久保校長は提言書の中で、オンライン授業を指示した市の方針について「通信環境の整備など十分に練っていないまま場当たり的な計画で進められており、学校現場では今後の進展に危惧していた」と指摘。市長発言を発端にお粗末な状況が露呈したことで「学校現場は混乱を極め、保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている」と訴える。

木川南小学校に1人1台の端末が配られたのは1月中旬。2月20日にオンライン授業を試したが、回線の容量不足のために「動画が動かない」「先生の音声が切れて分からない」などのトラブルが続出したという。

「Wi-Fi環境のない家庭には貸し出してくれるとのことでしたが、他校からも申し出があり、予備は1台もないと言われました。しかも低学年の場合は、親がいないと起動させることも難しいので、働く保護者の負担も大きい。これでは、全面オンライン授業は無理だと思っていたところに、市長発言でした」

現場の状況を知らない松井市長が「全小中学校でオンライン授業を行う」と報道陣に表明したのは4月19日。このれを受け、市教委が22日に打ち出した方針は「午前中は自宅でオンライン授業かプリント学習を行い、給食を食べるために登校し、家庭の要望があれば児童を校内で預かる」という内容だった。 提言にはこう書かれている。 「子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかきむしられる思いだ」と。

久保校長

 

●児童らないがしろ

 

「市長がオンライン授業をやると言えば、現状では無理だとわかっていてもやらなければならないという空気があるのでしょう。そんな大人の都合ばかりを張り合わせた内容でした。感染リスクを下げるためなら、なぜ給食のために登校させるのか。子どもの感染予防は中途半端だし、学びについても十分な保障ができない。しかも集団登校ではなく、一人で登校することになるため、交通安全も保障しにくくなる。なにより、子どもたちの生活リズムがおかしくなり、保護者や子どもの負担がかかると思ったのです」

久保校長は市教委の方針には従わず、「通常通りの時間で集団登校をし、4時間の学習をした後、給食を食べて午後2時ごろ帰宅」を決めた。運用を始めた4月26日に保護者にアンケートしたところ、回答した128人のうち1人を除いて、「いつも通りの集団登校に賛成」と答えている。

1

2 3

関連記事



ページ上部へ戻る