ライブハウス閉店
3月30日、大阪市中央区日本橋のライブハウス「太陽と月」が閉店した。10年5カ月間にわたって経営してきた木谷安孝さん(45)のメッセージには無念の思いがつづられていた。
「諸事情により本日を持ちまして営業を終わらせていただきます。
現時点で被害者はゼロですが、今後、この時勢でそれを維持することができるかどうか。
皆さんの安全を守れるかどうか、頑張るということだけでは埋まらないプレッシャーを毎日抱えて営業していました。私が私の采配ですべての判断ができるなら責任もとれますが、貸しスペースという側面もある以上、皆さんのご事情も様々です。
そこに対して討論して、それを繰り返しながら答えを出すのはこの騒動では難しいと感じました。……」
政府による自粛要請が始まった2月下旬以降、各地のライブハウスでは公演の中止が相次いでいる。3月には大阪市内のライブハウスでの集団感染が発生。さらに、緊急事態宣言で「3密」にあたるとして、営業自粛や休業要請を受けたこともあり、どこも経営難に直面している。
木谷さんが店を閉める決断をしたきっかけはスタッフが感染したこと。アメリカから戻ってから微熱が続いた。受診しても知恵熱ではと言われたが、別の病院で渡米していたことを打ち明けると、コロナの可能性があると言われた。PCR検査の結果、陽性反応が出たため、3月28日に入院した。そのスタッフには週に1回ほど、手伝ってもらっていた。
木谷さんは客と演者の安全を確認し、保健所に確認したところ、「営業しても問題ない」とのお墨付きを得た。
しかし、演者の一人がSNSで公演中止の理由を書き込んだところ、炎上。木谷さんは「判断しないといけない」と思い、2週間の自宅待機を自らに課した。
木谷さんのメッセージはこう続く。
「この騒動の一番の問題は、無知ゆえの恐怖です。それが風評被害を生みます。
僕は思います。ワクチンではなく、この『無知ゆえの恐怖』に勝つ力がついた時に、人はこの騒動を終わらせることができるのはないかと……」
木谷さんにとっての「城」は40人ほどで満席になるスペース。売り上げは多い月で60万円ほどだったが、家賃や光熱費、人件費、飲食の仕入れなどで手元にはほとんど残らなかった。さらに、店を閉めるにあたって引っ越し代や現場復帰のための費用がかさみ、これまでの貯えは底をつきつつあるという。
落語家、露の新幸としても、木谷さんは苦境に立たされている。3月1日を最後に落語会はすべてキャンセル。5月も予定は真っ白だという。
家族は妻と2人の子供の4人。妻がパートに出ており、新幸さんも新たな挑戦を始めた。YouTube チャンネルによる生落語会だ。
「太陽と月」で、音楽や落語を通じていろいろな出会いが生まれたという。
「僕にとっては確かな手応えのある『力』です」
ネオン街ひそり
大阪府が休業要請して初めての週末を迎えた大阪・キタ。うずみ火事務所がテナントとして入る大阪市北区の雑居ビルは、私鉄や地下鉄、JRの駅から数分の繁華街にあるが、午後7時過ぎの路地裏はひっそりとしていた。周辺の大型商業ビルは軒並み休業、居酒屋もほとんどがシャッターを下ろしている。いつもなら迷路のような通路に酔客があふれる阪急・大阪梅田駅前の「梅田食道街」も休業中だった。そのまま近くの「阪急東通商店街」に足を伸ばす。いつもなら誰かの肩に触れずに歩くのも難しいほどだが、通行人もまばら。営業している店も数えるほどだ。
一角にある『季節料理 川上』の明かりはついていた。10人も入ればいっぱいのカウンターの店だが、先代の川上弘子ママから数えて半世紀近く、店の暖簾を守っている。
二代目店主の西森美智子さんは「いまは以前の半分以下ですね。先代のママは『暇は3日』って言っていました。暇な日が3日続いても、またお客さんは入ると。それが今回は通じない。けた違いに暇ですねえ」とため息まじりに不安を口にした。
常連客が支える店だが、その大部分は高齢で、コロナの感染拡大とともに外出を控える客が多い。
居酒屋を含む飲食店は休業要請の対象外。だが営業は午後8時まで、酒類提供は午後7時までと線引きされた。
「休業に対して補償があるならともかく……。お客さんが来る来ないにかかわらず、とりあえず店を開けています。こういうやり方しかできないから。でも、私は一人なのでこれができますが、人件費のかかる店はそうはいかないでしょうね」
まもなく、テナントの大家に家賃の相談をするつもりだという。いつもなら、目にも鮮やかな名物の大皿料理が並んでいたカウンターが、寂しそうだった。