震災障害者の人生つづる NPO「よろず相談室」牧秀一さんが証言集出版

「死者の陰に隠れて、障害を残した人の情報すらなかった。障害を負ったとはいえ、『生きているだけましなのでは……』との思いもあった」

集いに参加した人たちは「ここは泣ける場や」と言って一緒に泣き、「これで、あと1カ月頑張れるわ」と帰っていった。

参加者の一人、城戸洋子さん(40)は倒れてきたピアノの下敷きになり、脳に障害が残った。当時中学3年生。運ばれた病院で「生存率3%」と告げられた。奇跡的に意識は戻ったが、震災から6年後に「高次脳機能障害」と診断された。知的、身体、精神の三つの障害を持ち、障害者作業所に通っている。

洋子さんは集いの場で、同じ境遇の大川恵梨さん(26)と出会った。恵梨さんは生後2カ月半で震災に遭い、倒れてきたタンスで脳を強打し、知的障害と歩行障害が残った。

その話を、恵梨さんの父親から聞いた洋子さんは号泣する。「震災後、感受性が弱くなっていた洋子さんが感情表現を取り戻した瞬間だった」と、牧さんは振り返る。

「行政に相談できる窓口もなく、支援もなかった。1・17が来るたびに、私たちのことは語られなかった」。洋子さんの母美智子さん(68)の言葉だ。

牧さんらの訴えもあり、兵庫県と神戸市は2010年度に震災障害者の実態調査に乗り出し、349人の存在を把握。県は13年に相談窓口を設置し、復興支援専門員らが相談に応じている。

さらに国も動かした。17年には身体障害者手帳の申請書類の原因欄に「自然災害」の項目が追加されたのだ。

災害は人生変える

「仮設住宅や復興住宅が、被災者が暮らしていた地域から離れた場所に建てられたことで、被災者はマイナスからの出発となってしまった。特に、高齢者は喪失感とあきらめの中で亡くなっていった」

牧さんは15年から5年をかけ、被災者たちの記憶を残すため、彼らの証言を映像で記録した。震災前はどんな生活を送っていたのか、震災の様子、その後の苦悩やささやかな喜びなどを聞き取り、収録してきた。1人当たり1時間半から2時間で計約40時間の映像記録。内部資料にするつもりだったが、見たカメラマンから「世に出してほしい」と依頼され、書籍化を決意。ボランティアの協力を得て、あの日から25年を生きる18世帯26人の人生を書き起こした。

災害が起きると死者数で判断しがちだが、「6434人の一人ひとりの人生がなくなったと、とらえてほしい」という。「災害は毎年やってくる。亡くなる人、けがする人、それぞれの人生が災害によって変えられてしまうという想像力を持ってほしい」と訴えた。

証言集「希望を握りしめて」は504㌻。証言映像(約50分)のDVD付きで2500円(税別)。

牧さんが出版した「希望を握りしめて」

東北の被災地の中学や高校にこの本を贈るため、クラウドファンディングで資金を募るプロジェクトも3月末まで実施している。

写真説明 「震災障害者の存在を知ってほしい」と語る牧秀一さん(1月17日・神戸市中央区のジュンク堂書店 栗原佳子撮影)

 

写真説明 牧さんが出版した「希望を握りしめて」

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