新型コロナウイルス感染が確認されても入院できるのは1割弱。自宅に留まらざるをえない陽性患者は1万8000人――。大阪府は春の「第4波」で医療崩壊に陥った。8月8日時点の死者数は全国最多の2733人(東京都は2311人)と突出。その半数以上が第4波で命を落とし、少なくとも19人が治療を受けることなく自宅で亡くなった。その大阪もまた「第5波」のただ中にあり、春の再来が懸念されている。教訓は生かされるのか。府の保健師らによるオンライン会見で、薄氷を踏むような最前線の実態が浮き彫りになった。(栗原佳子)
●「医療につなぐことができなかった」
第4波では英国由来の変異株が猛威を振るい、4月半ば以降は1000人超の新規感染者が確認される日が続いた。患者と医療機関をつなぐ保健所機能もパンク、救うべき命を救えない現実に直面した。会見は感染状況が小康を得ていた7月3日、府庁や病院、研究所などの独立行政法人などの職員でつくる大阪府関係職員労働組合(府職労)が現場の声を伝えたいと実施。保健師や事務職員、医療従事者らが匿名で参加した。
保健師のAさんは「陽性者を医療につなげられなかった。入院が必要と判断し、(患者の症状に応じて入院調整を行う)府入院フォローアップセンターに申請しても『酸素飽和度90%を切る人を優先して入院調整している』と。4月半ば以降は申請3、4日後にやっと入院先が決まるのが普通だった。患者さんが自宅で日に日に悪化していく姿が電話口からも感じ取れ、恐怖のあまり受話器を取る手や声が震えることもあった。入院できて安堵したのも束の間、亡くなったという連絡が次々と入ってくる。他にできることはなかったのかという無力感や自責の念を抱えながら皆働いていた」と振り返った。
救急車内で10時間近く酸素吸入しながら待機しても受け入れ先が見つからないケースは珍しくなかった。重症病床はあふれ、一部の患者は軽症・中等症病床での治療を余儀なくされた。
「『呼吸器をつける病院がどこもいっぱいなので、万一の時は高度な医療が受けられないかもしれないがそれでもいいか』と家族に厳しい現実を伝えなければならないこともあった。一人一人に寄り添いたくても、その日のうちに新規陽性者に連絡をしなければならず常に時間との勝負。体調不良でも、小さい子どもが家で待っていても、ほとんどの保健師が総動員で毎晩夜遅くまで働いた」
第5波は間近に迫るが、人員態勢は不十分なまま。「もう一度乗り越えられるか不安でならない」とAさんは声を絞り出した。
保健師のBさんも「1波より2波、2波より3波、3波より4波と感染者数はけた違いに多く本当に疲れ切っている。このうえ第5波がやってくればいよいよ誰か倒れるのではないか。不安でしかない」と吐露した。
コロナ対応に追われながら、後回しにせざるを得ないが通常業務もこなしている。「圧倒的に職員が足りないことで住民が困っているのを目の当たりにする。職員の働きやすい環境が住民サービスの向上になるはずだ」と訴えた。
4月後半からは連日2桁の死者数が確認され、5月11日には55人を数えた。保健師のCさんは「毎日、病院から誰々さんが亡くなったという連絡が来る。人が亡くなるということに若い保健師たちが麻痺してきたのではないかと危機感を感じた」と明かした。高齢者や障害者の施設で患者が出た場合は『施設』にとどめるという暗黙の了解もあった。「介護職員もいるのだからと。だが医療に不慣れだから、クラスターが次々に出た」という。
保健師Dさんは「80歳以上の高齢者、介護が必要な障害者は宿泊施設にも受け入れてもらえず、自宅で家族にみてもらうしかなかった。日本語が理解できない外国人もそうだ。ありえない施策。それを言っても改善されないのは行政としておかしい」と指摘した。