大阪で「不自由展」開催 「表現の自由守れた」

勉強のために来たという府内の女子高校生(17)は「『慰安婦』問題は教科書に出てきましたが、ネットでの知識しかありません」。「少女像」の横の椅子でツーショットを自撮りし、「見ないと批判もできません。この像が反日とは思えないです。SNSでチェックしていましたが、困難な中で展示を実現しようとした人たちを尊敬します」と言う。

大阪市内の20代の男性は「建物の外で騒いで妨害している人たちがいますが、それも含めて『表現の不自由展』なんだと思いました」と話していた。

旭日旗を手に開催反対を訴える女性も  

 

●「日本国民として」  

施設前の路上では、街宣車が周回し、日の丸を掲げた人たちが拡声機を使って「反日的な展示をやめろ」などと抗議活動を続けていた。両手で旭日旗を掲げて立っている60歳代の女性に話を聞いた。

「従軍慰安婦は存在しません。ねつ造なんです。それなのに、この日本をおとしめるものを平気で展示するなんて許せません。日本国民なら怒って当たり前でしょ」

問題視している「少女像」を実際に見たことがあるかと尋ねると、「ない」という。

さらに、その女性は、天皇の肖像が焼却されたり英霊を辱めるような絵が展示されている、と憤った。「日本国民として『恥を知りなさい』と言いたい。ご遺族がどんな気持ちか、考えるべきです。平気で展示するような人たちは、逆の立場になって考えるという思考がないのです」

身近に戦争犠牲者はいるのか尋ねると、「いない」ということだった。

実行委によると、会場には中止を求める脅迫文のほか、ペーパーナイフ、袋に入った不審な液体が「サリン」などと書かれた文書とともに送りつけられた。また、爆竹のようなものが入った実行委宛ての郵便物も、配送途中で見つかったという。

 

 

  ●「大阪が成功体験に」

「日本で表現が検閲や規制されている事例は思った以上にあり、それが特に安倍政権以降、増えています。排外主義、性差別、植民地支配、戦争責任の否定などを背景に、不当な攻撃にさらされている。その結果、消されているのは少数者の表現。その危機感が原点にありました」

15年から「表現の不自由展」にかかわり、トリエンナーレ、延期された東京の不自由展の実行委員でもある編集者の岡本有佳さんは名古屋を経由して3日間、大阪の会場を見守った。「名古屋の『強制終了』は謎が多い。名古屋の人たちは失われた残り4日をどう回復させるかと動いています。大阪がやり切ったことは、名古屋と東京につながる大きな力になる」と期待をこめた。

トリエンナーレで芸術監督を務めたジャーナリストの津田大介さんも最終日、会場に駆けつけた。

「東京、名古屋が中止になる難しい状況の中、大阪では完全な形で『表現の不自由展』をできた。暴力や脅しで表現の自由はつぶせないという先例をつくった」と評価した。

差別問題に詳しいジャーナリストの安田浩一さんは3日間、大阪で取材。「街宣右翼は騒ぐ。それでも『不自由展』は淡々とはねかえし、人々も足を運びました。やればちゃんとできるじゃないかと、大阪の『成功体験』は伝えている。たかが美術展。自由にできないことがおかしい。できるのが当たり前。でもそこに大勢の努力があった。心強く思います」と総括した。

今回の実行委員会は誰一人、名前を公表していない。 その一人がこう話した。

「本当は、堂々とやればいいことなのに、なぜできないか。何らかのかたちで生活などを脅かされる可能性があるからです。こんな社会でいいはずがない。誰もが自分たちの思いを堂々と主張し、名前も顔も出してやる社会でなければダメだと思う。でも今回のことは、そういう社会につながっていく第一歩だと思います。 何か組織があるわけではなく、このままではあかん。なんかでけへんのかと自発的にたくさんの市民が集まった。『表現の不自由展』が夏の風物詩になればいい。続けていくことが抵抗なんやと思っています」

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