新型コロナ特措法 強権的首相への危惧

「憲法も、ある日気がついたら、ドイツのようにワイマール憲法がナチス憲法に変わっていたのですよ。誰も気がつかないで変わったんだ。あの手口を学んだらどうかね」

ナチス憲法というのは存在しない。ただ、当時、世界で最も民主的な憲法と言われたワイマール憲法がありながら、なぜ、ナチスの独裁政権が生まれたのか。
実は、ワイマール憲法に「緊急事態条項」があった。「公共の安全・秩序に重大な障害が生じる恐れがあるときに基本的人権を停止できる権利を大統領に与える」

ヒトラーはそれを2回使って、独裁政権を手にする。

1933(昭和8)年、ナチスは選挙で第一党となり、ヒトラー内閣が誕生する。とはいえ、過半数に届かず、不安定な政権運営を強いられたため、国会を解散する。選挙運動のさなか、ヒトラーは1回目の緊急事態条項を使い、反政府を訴える政党の集会やデモ、出版をことごとく禁止した。

さらに2月27日、国会議事堂が放火される。ヒトラーは「共産党のテロだ」として、2回目の緊急事態条項を使う。ナチス以外の国会議員や支持者が次々に逮捕状もなく、拘束された。その結果、選挙で過半数を制したナチスが強行採決して成立させたのが「全権委任法」だ。

第1条 立法権を国会に代わって政府に与える

第2条 政府立法が憲法に優越し得る

ヒトラー政権は好き勝手な法律を次々に作り、それは憲法よりも優先された。こうして、世界一民主的な憲法の下で、合法的に独裁確立したのである。

戦前、日本にも緊急事態条項があった。その一つが緊急勅令。天皇が法律に代わる命令を出すことが認められていた。その結果、治安維持法にも死刑が認められ、政府に反対の声を上げる人たちは次々と牢獄へ入れられた。

事前報告で骨抜きに

もともと憲法は国家権力が暴走しないように縛るもの。緊急事態条項はそれを解き放ち、基本的人権を制限する危険な条項になりかねない。

そんな危険性が指摘されながらも、今回の改正案をめぐって野党が割れた。日本維新の会は予想されたが、立憲民主党や国民民主党、社民党もが賛成に回ったのはなぜなのか。山田さんはこうみる。

「緊急事態宣言は、民主党政権の時に作った新型インフル特措法にも盛り込まれていたため、反対しにくい事情があった。それゆえ、賛成する代わりに『国会への事前承認』を要求した。最低でも首相が私たちの人権を恣意的に制限することを警戒しているとアピールしたかった。それと、新型コロナの感染拡大防止に対し、足を引っ張っていると思われて支持率を下げたくないとの判断もあったのでしょう」

緊急事態宣言を認めている法律が4本ある。

「警察法」と「災害対策基本法」「原子力災害対策特措法」、そして改正前の「新型インフル特措法」だが、うち事前に国会承認が義務付けられているのは、警察法と災害対策基本法だけ。あとの2本は国会承認が不要だった。

立憲、国民民主党などは、国会への事前報告が付帯決議に盛り込まれたことから賛成に回ったが、山田さんはもっと審議すべきだったという。

「この法律は、首相に緊急事態による私権制限を認める内容で、安倍首相のような強権的手法の総理大臣にこのような強大な権限を与えるのは危険です。もっと事前承認にこだわるべきでした。私たちの人権を制限するのは、2012年に発表した自民党の改憲草案と同じ内容で、あくまで首相が決めることになっています。事前承認にすれば、一応の歯止めになります。ところが、立憲などは付帯決議で事前報告とすることで折り合ってしまった。承認と報告は違います。骨抜きにされる可能性もあります」

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