元ソウル特派員が見た日韓関係 救済されない元徴用工

一方、安倍首相と文大統領との首脳会談では、朝鮮半島問題をめぐる日韓の立場の違いから険悪な関係になっていたという。「文大統領は五輪を成功させるため、3月に行われる予定だった米韓軍事演習の延期を提案。安倍首相は演習を遅らせてはならないと発言するなど、分かり合えないことがここから明確になったようです」

18年4月、板門店で南北首脳会談が行われた。現場から送られてくる映像は感動的なものだったという。「韓国メディアは明るいムードで伝え、このまま拡大して平和が訪れるのではないかという雰囲気でした。かたや日本政府は終始、冷ややかなまなざしで見守っていました。歴史問題だけでなく、日韓では国際政治の視点も違っていたのです」

同年10月末に韓国大法院が日本製鉄に対し、元徴用工に賠償を命じる判決を出した。安倍首相は「国際法違反」と批判、文大統領は「三権分立があり、判決を尊重しなければならない」と対立、日韓外交の最大の懸案となった。

19年6月、関係修復の契機と見られたG20大阪サミットで、韓国側からの首脳会談要請を日本側が「日程調整がうまくいかない」と拒否。安倍首相と文大統領は数秒間だけの握手で終わる。日本政府は7月4日、韓国との信頼関係が失われたことを理由に、半導体原料のフッ化水素など3品目の輸出手続きを厳格化。韓国社会ではかつてない規模の日本製品不買運動や日本旅行ボイコット運動が起きた。

「韓国の人たちは安倍首相に対して怒っているのですが、日本人には好意的な印象を持ち、日本の文化や食に親しんでいます。そのため、専門家も含めて不買運動は長続きしないとみていましたが、読みは外れました。過去の例にとらわれてはいけないと感じました」

韓国は8月、米国の反対を押し切って日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を通告。日韓関係の悪化は未知の領域に入った。

徴用工訴訟問題について、武田さんは「原告にすれば、韓国の法律に則って賠償を受けるのは当然の権利だが、日本企業は賠償金の支払いをボイコットしています。そのため、韓国にある日本企業の資産を差し押さえ、売却して賠償金相当額を手に入れるという手続きに入っています。資産が売却された場合、日本政府は対抗措置として何らかのことをやると牽制しています。資産の売却が4月以降にあり得るといわれており、そのときにもう一つの山が来ます」

1965年に日韓請求権協定が結ばれた。請求権問題は「完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定され、日本が無償3億㌦、有償2億㌦の経済協力を約束した。ここに徴用工への慰謝料が含まれるか。

「大法院判決は、元徴用工の人たちの受けた非人道的な扱いを踏まえて日韓請求権協定には含まれない、慰謝料を受け取る権利があると主張。元徴用工の原告たちは日韓請求権協定と別に日本企業からお金を受け取る権利があると言っています。心情的には日本企業がお金を払って和解という形で終わればいいと思うのですが、日韓請求権協定の土台を崩すと、これまでの約束が崩壊してしまう懸念があるのもわかります。結論を出しにくい問題ですが、韓国政府が主として対応すべき問題だと思います」

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