今後の焦点は、差し押さえられた日本企業の資産の現金化。日本のメディアは昨年から「年明けにも着手」と報じてきた。その場合はさらに、日韓関係は抜き差しならない段階に陥るといわれている。
今後の見通しはどうか。ソウル市龍山区の「植民地歴史博物館」を訪ねた。
NGO「民族問題研究所」が一昨年、開設したもので、徴用工訴訟の歴史をたどるブースもあり、日本の市民らが長年闘いを支えてきたことも丁寧に伝えている。
「実は現金化の見通しは立っていないのです」と、元徴用工訴訟に詳しい民族問題研究所対外協力室長の金英丸(キム・ヨンファン)さんは流ちょうな日本語で話す。
1972年生まれの金さんは90年代、北海道での朝鮮人労働者の遺骨収集に参加。高知の平和資料館「草の家」事務局長も務めた経験を持つ。日本と韓国を行き来し、戦後補償をめぐる訴訟や日韓の市民運動などに長く関わり、支えてきた。
「差し押さえの決定書が日鉄に伝わっていないのです。というのも、日本の外務省が送達してくれないから。昨年1月に差し押さえの決定を出しましたが、その年の6月に戻ってきました。2カ月後の8月に再送達したのですが、届いたという連絡もない。戻ってもきていない。だから、現金化が進まないのです」
韓国では一昨年の大法院判決のあと、かつて徴用工を強制動員した日本企業14社に対し188人の被害者や遺族がソウルや光州市の裁判所などに追加提訴した。これについても、日本の外務省が企業側に送達していないという。
「こちらの裁判所が期日を決めますが、送達しないので裁判が始まらないのです。勝ち負けに関係なく、送達もしてくれないのではどうしようもない。ある意味、国際法違反。韓国の外務省も交渉しているようですが……」
一昨年の大法院判決は、強制動員と強制労働の事実を認定した。強制動員が「日本の不法な植民地支配や侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的不法行為」とみなし、強制動員被害に対する慰謝料の請求権を認めたのだ。日韓請求権協定についても「協定は両国の民事的・財政的な債権債務関係を解決するものであり、反人道的不法行為に対する請求権は、日韓請求権協定の適用対象には含まれていない」と判断した。