「元徴用工」原告女性の訴え 戦後も偏見の苦しみ

一方、安倍首相は「国際法違反」だという。日韓請求権協定で請求権が「完全かつ最終的に解決された」と明記されたことを根拠にした主張だ。しかし、請求権協定で破棄されたのは国家間の外交保護権。個人の請求権については、外務省の柳井俊二条約局長も91年8月の国会で「個人の請求権を消滅させたものではない」と答弁。大法院判決直後の2018年11月には、当時の河野太郎外相も「個人の請求権が消滅したと申し上げるものではない」と述べている。

金さんに、あらためて大法院判決の意義について尋ねた。

「植民地支配について韓国側は不法、日本側は合法としていましたが、大法院は不法と判断しました。韓国の司法機関が、植民地支配を不法と判断したことは世界史的にも意味がある」と切り出し、こう続けた。

「強制動員が反人道的な不法行為であり、不法行為に対する慰謝料請求であること。国家間の問題ではなく、被害者をどう救うかという人権問題であるということを認定したことも大きいです。日韓請求権協定は、当時の日米韓の政治権力の野合によって作られたもの。国家権力が個人の権利を無視してきたことに対して、被害者のみならず、日韓の市民たちが一緒に戦後補償の問題に向き合う過程で積み重ねてきたものが実った、それが、この判決だったと思います」

一連の裁判が日本で審理されている中で日韓請求権協定が「壁」となった。その中で、日韓で情報公開の訴訟も起こされた。

「『解決済み』との前提は間違っていないのか。日韓会談で両政府は何を協議したのか。両国の文書を公開させたことで、協定をめぐる両政府の話し合いの内容が明らかになったのです。東アジアの平和・過去清算を願う市民たちの連帯によって勝ち取った判決という意義があり、日本社会にとっても、大きな意味がある判決だと思います」


取材には民族問題研究所に事務所を置く「太平洋戦争被害者補償推進協議会」代表の李熙子(イ・ヒジャ)さん(76)も同席してくれた。日本軍属とされた父を亡くした遺児で、長年にわたって戦後補償裁判の原告ら被害者たちを支援してきた。

「原告の多くが亡くなりました。植民地時代に生まれ、強制的に連れていかれ、一生この問題が胸の傷として残り、回復されずに途中で亡くなられていったことを思うととても胸が痛いです。存命の方もみな体調がすぐれません。被害者のみなさんは、強制動員された悔しさ、踏みにじられた人権を取り戻すために取り組んでこられたのに、大法院判決を受けても日本は認めない。悔しいです。大法院判決が出たとき、これで日韓の不幸な歴史を繰り返さないための出発点になると期待しましたが、安倍首相が不幸の種をまいてしまいました。65年に終わったことだと安倍首相はいいますが、それが本当なら、何十年も裁判をする必要はなかったでしょう」

李さんは企業の姿勢も強く批判した。

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