まず、大法院判決について。金さんは「判決を支持する立場」としたうえで「『政府見解を覆した』という日本政府の苛立ちもわからなくもない」と切り出した。「というのも、これまで韓国政府も、被害者が日本に直接請求をすることについて極めて自制的に対応してきたからです。日本政府にとっては、大法院判決は韓国の政府機関がこれまで日韓の中で想定されていなかった新たな枠組みへの言及をしたと映るのかもしれません」
朴槿恵政権は、2015年の「慰安婦」合意をめぐり国内で批判が噴出。そのため、さらに日韓関係を悪くするであろう元徴用工訴訟の判決をできるだけ遅らせるよう大法院側に働きかけていたことが明らかになっている。
「政権交代し、原告側の主張を認める判決が遠からず出ると予測されたので、韓国側は早い段階で自らの立場を説明すべきだったのではないかとは思います。三権分立の原則があり、司法がどのような判決を出したとしても政府が判決を覆したりするのは難しいこと。あくまでも人道的観点であること。賠償を求める判決が出ても、日本政府が過去に取り組んできた戦後処理の枠組みの中で十分に対応できうるものであることなどです。日韓にとって不幸なのはいま、双方ともアジア外交の中で中国との関係を重視、互いの関心が薄れていることだと思います」
二つ目の個人請求権についてはどうか。金さんは「両国の関係だけみるとどっちもどっちの雰囲気ですが、国際法論理、第2次大戦後の戦後体制の観点でいうなら日本の方が常識を逸脱している」という。そして、「戦後処理をめぐって交わされたすべての条約の中で、個人請求権を否定した条約は一つもない」と指摘する。
「1965年に日韓基本条約を結ぶとき、日本で議論になったのは日本人が朝鮮半島に残してきた資産に対する請求権でした。当時の日本政府は『個人請求権が喪失するものではない』と答弁しており、『行使することも可能』とも言っているのです」
当然、徴用工の個人請求権も消滅していない。91年8月の参院予算委員会で、外務省条約局の柳井俊二局長は「日韓両国が国家として持っている外交請求権を相互に放棄したということであり、個人の請求権を消滅させたものではない」と答弁した。
金さんは「かつての植民地支配を合法と主張する日本は、5億ドルは経済協力金で、賠償金ではないと言い続けてきました。受け取る韓国側も賠償金ではないと認識していたと、交渉記録にも明記されています。一部被害者に対し、多いとは言えない支給がありましたが、5億ドルのほとんどは地下鉄や港湾などのインフラ整備、製鉄所の建設などに使っています。それらは日本企業と随意契約を結ぶことになっており、建設費や利権は日本企業へ還元される仕組みです」