〈見て回っているうちに特異な作品に気づきました。一人が5作品ほど出されており、「憲法9条を守れ」「核兵器禁止」といったものです。どう見ても、花の絵の上に自分の政治信条を書いて出しただけとしか見ることができませんでした。非常に不愉快な気分になってしまいました〉
最後に〈展示場所が市立ギャラリーなので市にも意見を述べておきます〉と結んでいた。
後日、市職員が来て、指摘された作品の撤去を指示したが、浜野さんは「主宰者は私ですから私が決めます」と応じなかった。
「正直なところ、一瞬ひるみました」と、浜野さんは振り返る。「市の担当者の指示に従わないと、絵手紙教室の仕事を失ってしまうのではという思いがちらついて……。でも、言われるがままその作品を撤去したら、もっと大きなものを失うと思ったのです」
空襲の最中、死を覚悟し、子どもだけでも助けようとした母親のことが脳裏をかすめた。語り部として、浜野さんは子どもたちにこう語って講演を締めくくる。
「世の中に100人いたら100人とも顔色や考え方も違います。それを特定の方向へ束ねようとすることを許してはいけません。一人ひとりの違いを認める社会をつくることが戦争を繰り返さない道だと、私は信じています」
1
2