「元徴用工」原告女性の訴え 戦後も偏見の苦しみ

日韓対立は改善の兆しが見られない。一昨年10月の元徴用工判決が発端となり、日本政府は輸出管理を強化し優遇対象国から韓国を除外、韓国は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定した。失効は回避されたが、韓国内にある日本企業の資産は差し押さえられ、日韓関係は国交正常化以降、最悪ともいわれている。そもそも原告たちは何を訴えてきたのか、彼らを支える市民運動家はどんな解決策を描いているのか。韓国へ行き、話を聞いた。(矢野宏、栗原佳子)

ソウル中心部から地下鉄で40分。漢江を越えた終点の馬川(マチョン)駅近くに、機械メーカー「不二越」に損害賠償を求めた訴訟の原告、金正珠(キム・ジョンジュ)さん(88)が暮らすアパートがある。

迎え入れてくれた金さんは身長145センチと小柄だ。部屋は片付けられ、居間の壁にキリストの肖像画がある。食卓の上には山のように薬袋があった。

「私はまもなく90歳。残っている時間はもうない。今日死ぬか、明日死ぬか」
神経症を患っているといい、手渡した名刺を持つ手が小刻みに震えている。
元徴用工判決をめぐる安倍政権の主張に対する感想を求めると、金さんの口調が激しくなった。

「安倍(首相)に話がしたい。解決済みだというが、私たちが強制労働を体験したことを知っているのか」「私は不二越で働かされ、賃金も受け取っていない。補償を求めているのは不二越。なぜ、口をはさむのか」

立命館大大学院に留学中の金眞煕(キム・ジニ)さん(25)が同時通訳をしてくれているが、あふれんばかりの怒りを受け止めかねている。

「私は日本人教師にだまされて日本へ連れていかれた。だまされた、悔しい……」と、言葉につまった金さんの目には涙が浮かんでいた。

金さんは1931年8月、全羅南道の東南、順天(スンチョン)市で、8人きょうだいの次女として生まれた。祖父は漢方薬店を営み、所有する田畑を5人の使用人が耕すなど、暮らしは豊かだった。

小学3年生の時に母が病死。父は42年、日本軍に徴用され釜山近くの鎮海(チネ)で労働を強いられた。祖母と二つ上の姉が母親代わりだった。

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