大阪市の教育と財産を守れ! 大阪市立の高校府移管 無償譲渡NO住民訴訟の記録出版
- 2022/5/9
- 社会
今年度から大阪市が運営する高校全22校が大阪府に移管され、府立高校になった。政令指定都市から道府県へ移管されるのは初めてのこと。大阪市は高校運営から手を引いたばかりか、土地・建物を府にまるごとタダで渡してしまった。なぜこんなことになったのか。維新政治・行政を追及してきたフリージャーナリストで、無償譲渡を違法とする住民訴訟の原告の一人、幸田泉さんが『大阪市の教育と財産を守れ!』(アイエス・エヌ)を出版した。一審で敗訴、大阪高裁で第2ラウンドを迎える住民訴訟の経緯を平易な言葉で記録するとともに、維新政治・行政の10年余を検証し前代未聞の移管劇の正体に迫っている。(新聞うずみ火 栗原佳子)
移管の動きが始まったのは松井一郎知事、橋下徹市長時代の2012年。府市統合本部で「二重行政」として検討され、14年には「大阪都構想」=大阪市廃止・分割を先取りするかたちで市立高校の府移管方針が決まった。しかし15年、20年に行われた「大阪都構想」の是非をめぐる住民投票はいずれも否決され、大阪市は存続した。にもかかわらず、2度目の住民投票からわずか1カ月後の20年12月、府・市両議会で移管の関連条例案が可決した。
市立の高校の土地・建物は大阪市公有財産台帳で1500億円。市場価格では倍の3000億円と試算される巨額な市有財産である。しかも、府に移管されると「3年連続定員割れした高校は再編対象という府立学校条例が適用されるため、多くの学校が統廃合される可能性が高い。廃校後の不動産売却益は府のものになる。
「大阪市になんの見返りもない『市民の財産投げ捨て』で市民の財産を棄損している」--。幸田さんら大阪市民5人は昨年夏、「大阪市民の財産を守る会」を結成、市に住民監査を請求したが棄却され、昨年10月、大阪地裁に提訴した。地方財政法、地方自治法、大阪市財産条例に違反するなどとして無償譲渡契約締結の差し止めを求めたが、大阪地裁は3月25日の判決で、「移管は長期的な少子化を踏まえ、府または市の高等学校教育及び義務教育を効果的かつ充実したものにする目的で、一定の公共性、公益性が認められる」などとして「無償譲渡も不合理ではない」と訴えを退けた。
原告代理人の豊永泰雄弁護士は記者会見で「残念で、不当な判決。財産が移転してしまうと元に戻すのは非常に難しい。大阪市の財政規律は非常に緩くなっており、IRの問題でも、大阪市が大阪府の事業の『財布』のように使われる現状がある。大阪市の未来を占う意味でも、差し止めが認められなかったことは大阪市に深刻なダメージを与えると危惧している」と懸念を示していた。
幸田さんは<松井市長は大阪市の財産を大阪府に捧げるために就任した稀有な市長である>と皮肉り、<吉村知事と松井市長は、大阪都構想が実現できないので、住民投票を経なくてもいい方法で「大阪市廃止」の近似系をやっている>と警鐘を鳴らす。1760円。