阪大名誉教授の藤本和貴夫さんはロシア史専門で、大阪日ロ協会理事長。「なぜ、ロシアはウクライナに侵攻したのか」「プーチン大統領の誤算」について話を伺った。(新聞うずみ火 矢野宏)
大阪日ロ協会は3月5日、ロシア政府に対し、戦闘の即時中止と軍の撤退、対話と交渉による問題解決を求めて緊急決議を採択した。
ロシアのウクライナ侵攻は紛争の平和的解決という国際社会の原則を踏みにじるものであり、「とうてい許容されるものではありません」と指摘したうえで、こう訴えている。
「ウクライナやロシアに暮らす人々の長年の友人として、現在、ウクライナで多くの市民が銃火の下で生命の危機にさらされている事態を看過することはできません。一刻も早い平和の回復を望みます」
なぜ、ロシアのプーチン大統領は侵攻に踏み切ったのか。
侵攻当日、プーチン大統領はロシア国民に向けてこう語りかけている。
「アメリカやその同盟諸国と、ヨーロッパの安全保障の原則とNATO(北大西洋条約機構)不拡大について合意を試みた。すべては無駄だった。われわれの国境に隣接する地域での軍事開発を許すなら、ロシアにとって絶対に受け入れられない脅威をつくり出すだろう。これはロシア封じ込め政策である」と主張し、こう告げている。
「何度も言ってきた、レッドラインなのだ。彼らはそれを越えた」と。
藤本さんは、「この演説は『アメリカとその同盟国』に向けたものであることは明白です」と指摘する。
参考記事:ロシアのウクライナ侵攻 戦場となった原発(中)高まる原発事故のリスク
ただ、プーチン大統領にとっての誤算は、ウクライナの強力な抵抗だという。ウクライナのゼレンスキー大統領は国内にとどまって国民に徹底抗戦を呼びかけ、SNSを通じて国際世論を味方につけようとしている。
もう一つの誤算はロシア国内の反対運動の広がりだとも。
「侵攻を知った市民は多くの都市で戦争反対を意思表示するため街頭に出ています。新聞やテレビは政府の影響下にあるため、その様子はSNSなどを通じて世界に広がっています。その中で、ロシアの退役軍人団体『全ロシア将校協会』が1月31日、ホームページに掲載した書簡で『もし戦争開始が決定されているなら、変更すべきだ』と戦争の中止を訴え、大統領の退任を要求していたのです」