東京電力福島第一原発で増え続ける処理済みの汚染水をめぐり、大阪府の吉村洋文知事が10月16日に「国からの要請があれば、大阪湾に放出する」と述べたことが波紋を広げている。政府が海洋放出する方針を固めたことに関連しての発言だが、処理済みとはいえ放射性物質を含む汚染水を海に流して大丈夫なのか。ましてや大阪湾に……。原子力利用の危険性について研究し続けてきた「熊取6人組」の一人で、京都大複合原子力科学研究所(旧・京都大原子炉実験所)研究員の今中哲二さんに聞いた。(新聞うずみ火 矢野宏)
大阪の人の多くが「またか」と思ったのではないか。昨年9月、大阪市の松井一郎市長が、科学的に環境被害がないという国の確認などを条件に「福島第一原発の処理水を大阪湾に放出する」と発言したからだ。その直後に市民団体から「大阪湾は特殊な地形上、(放射性物質が)湾内に滞留する可能性が高い」と抗議を受け、大阪府漁業協同組合連合会から発言の撤回を求められている。
「大阪湾に放出するなんて、東電も国も真に受けていない。『大阪維新の会』のパフォーマンスとしか言いようがない」
今中さんは一笑に付した。
そもそも、処理済みの汚染水とは何か。事故で燃料棒が溶解した燃料デブリの冷却水と、原子炉建屋やタービン建屋内に流入した地下水が混ざり合うことで発生した汚染水を多核種除去設備「ALPS」で処理した水のこと。政府や東電は「処理水」と呼んでいる。
汚染水対策の「切り札」として、政府は345億円を投じて原子炉建屋内への地下水流入を遮断する凍土壁を作ったが、今でも1日180㌧の汚染水が発生している。