ドキュメンタリー映画「標的」元朝日新聞記者への不当な攻撃 不屈の記録

◆「慰安婦」企画通らず

「二十数年後に朝日新聞だけが捏造だとバッシングされる。絶対に裏に何かあるという印象を持ちました」

RKB毎日放送で戦争や人権問題など数多くのドキュメンタリー番組を手掛けてきた西嶋さんは91年当時、ソウル特派員だった。

2016年に福岡で植村さんの講演を聞き、自分も同様の記事を書いたことを伝え、取材を願い出た。快諾を得て関係者の撮影も始めたが、何度企画書を書き直しても通らない。
自分でやるしかないと決意、18年、退社した。映画製作のクラウドファンディングにも取り組み、資金を集めた。

西嶋真司さん。元RKB毎日ディレクター。「標的」でJCJ賞、韓国の「安鐘言論自由賞」

植村さんはその後、韓国カトリック大学に招聘され、西嶋さんは韓国、札幌、東京と密着し映像に収めた。裁判を支えるのはそれぞれ100人を超す弁護団。手弁当で集まった市民の思いも聞いた。

裁判の過程で、被告こそが事実を歪曲して捏造した実態も暴かれる。被告2人は植村さんにも「慰安婦」にも取材していない。しかし札幌訴訟は20年11月、東京の訴訟は昨年3月、ともに最高裁で植村さん敗訴が確定。政権へのそんたく、はびこる歴史修正主義を象徴する司法判断だった。

◆抗い、声をあげること

卑劣な攻撃は家族も標的にした。植村さんの長女はSNSで顔写真や実名をさらされ、殺害予告まで受けた。その長女がカメラの前で思いを述べるシーンがある。「不当なバッシングに苦しんでいる人は私だけではない。そんな人たちのためにも自分が声を上げて、この経験を世の中に知ってもらいたかった」。
長女は弁護士たちの支援で加害者を割り出し提訴、勝訴した。本人を案じ裁判長は和解を勧めたが、裁判を続ける道を選んだという。西嶋さんが作品に込めた思いは、長女の言葉に凝縮されている。

西嶋さんは「権力の意に沿わないメディアが排除されることが現実に起きている。権力とメディアの在り方はこれでいいのか考えてほしい。歴史の事実を、事実として伝えるか、歴史を歪めて伝えるのか。あなたはどちらなのか考えてほしいです」と話す。

植村さんは「裁判の過程で北海道新聞の人たちが様々な調査報道をしてくれましたし、西嶋さんは退社されてまでこの映画を作って下さった。バッシングがあったからこその大きな財産です」と振り返り、映画にこう思いを託した。「特に若いジャーナリストに見てほしいです。ジャーナリズムには覚悟が要りますが、覚悟を持って闘えば、会社を超え連帯できるんだと。この映画を広めていくことも私の闘いの第2ラウンドかなと思います」

「標的」は3月4日から京都みなみ会館、同12日から名古屋シネマスコーレ、4月2日から元町映画館で。

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