維新市府政に異議あり 大阪市立高校21校の府移管 なぜ無償譲渡?(2)しわ寄せは生徒に

明日1月28日、大阪地裁で注目の裁判が結審する。維新の市・府政が大阪市立の高校21校を廃止し大阪府に無償譲渡しようとしているのは違法だとして市民が訴えている。土地・建物だけで計1500億円という巨額な市民の財産。犠牲になるのは生徒たちだという危惧の声が上がっている。(新聞うずみ火 栗原佳子) 

2度目の「大阪都構想」住民投票で否決確実になり会見に臨む松井一郎氏㊨と吉村洋文氏=2020年11月1日、大阪市北区(撮影 栗原佳子)

では、市立高校の府移管で教育現場には何が起きるのか。先行例がある。16年、大阪市立の12校が廃止、府に移管された特別支援学校だ。学校教育法上、支援学校の設置義務は都道府県に課されるが、大阪には大阪市と堺市にも市立支援学校があり、居住地などで棲み分けられていた。しかし14年、当時の松井知事と橋下市長が「支援学校の運営については広域自治体である府に一元化」することで合意。 大阪市立だけが「二重行政」だとして、大阪市廃止を前提に府へ移管された。   

 

 大阪市の障害児教育は全国でも先進的な役割を果たしてきた。市立盲学校は国内で京都盲学校に次いで整備。市立聾学校も全国に先駆け手話教育を展開してきた。 

 父母や教職員は移管によって、手厚い市の独自事業が切り捨てられ教育条件が低下すると反対した。しかし、市教委も府教委も「教育条件は後退させない」の一点張りだった。   

父母らの不安は的中した。移管後2年は緩和措置が取られたが、その後は府のルールを適用。教材費の予算は半減し、図書室の本の年間購入費も50万円から9万円に。肢体不自由の子どもたちの学校に市が独自予算で8~11人配置していた「実習教員」は府の基準にあわせ2人までに減らされた。   

 

府は財政が厳しく、教室不足解消も一層遅れると懸念されていた。いま喫緊の課題は知的障害支援学校の過密化。26年には児童生徒が1590人増えると推計されるが、学校増設で対応できるのは600人程度。 

 

府立障害児学校教職員組合書記長の西面(にしお)友史さんは 「とにかく府は、お金がかかることは潰していくという姿勢。教育条件が低下したのは現場の実感です」 と嘆く。  

大阪市役所。住民投票は二度否決され、政令指定都市・大阪市は存続したが……=大阪市北区(撮影 栗原佳子)

高校はどうか。大阪市立の高校は、美術やデザインに特化した工芸高校やファッションやセラミックを学べる泉尾工業高校、福祉学科がある淀商業高など、それぞれ特色ある教育を行い、長年、大阪の経済界に卒業生たちを送り出してきた。 

 

大阪市立高等学校教職員組合副委員長の河内正さんも  

 

「卒業生たちが阪神工業地帯を支えてきた」と自負をにじませる。一方で、 移管によって長年育まれてきた特色ある教育内容やサービスが失われかねないと案じる。予算の規模も違う。府のルールにあわせることで、現在の外部の専門講師による授業が続けられるのかなど、現場から不安の声もあがっているという。 

 

「移管には道理がなく教育条件の低下以外の何物でもありません。結局しわ寄せを受けるのは生徒です」と河内さん。    

 

移管問題は教職員の生活も直撃した。実業系が中心の市立の高校では実習を担当する教職員が現在108人働くが、その半数が期限付きの臨時教員。行政との交渉を重ね、ようやく雇用継続の道筋が見えたという。だが市立の高校18校に専属で配置されている学校図書館司書の雇用は不透明だ。府立高校にもかつては司書にあたる職員がいたが、橋下知事時代に廃止されてしまっている。 

 

府・市教委は移管のメリットについて「府と市で教育のノウハウを共有でき、効率的な学校運営ができる」などと説明。松井市長も一昨年12月の市議会教育こども委員会で「広域的な視点で対応することが効果的で重要」などと語っていた。では、なぜ堺や東大阪、岸和田の市立高校は対象ではないのか。 

 

住民訴訟の譲渡差し止め訴訟第4回口頭弁論は、1月28日午前11時から大阪地裁1007法廷で開かれる。 

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