相可さんは「教員として教え子を送り出していた高校が軍需工場だったこと。特攻隊員に与える覚醒剤チョコを女学生が包装していたことに衝撃を受けました」と振り返る。
事実を知るため、最初に手に取ったのが「50年前日本空軍が創った機能性食品」(光琳)。元陸軍航空技術研究所(東京・立川市)の研究員、岩垂荘二氏が92年に刊行した著書だ。戦時中、航空隊の携行食開発に従事しており、ヒロポン入りのチョコを開発したとの話が記されていた。
「43年ごろ、ドイツ空軍がヒロポン入りのチョコを飛行士に食べさせたところ効果が大いに上がっている」との報告があった。岩垂氏は上官から命じられ、「棒状のヒロポン入りチョコをつくって特別に補給した」などと書かれている。
さらに、新井喜美夫著「『名将』『愚将』大逆転の太平洋戦史」の中に、「ヒロポンが大量に供給され、回りをチョコレートでくるみ、菊の紋章を刻印したものを、定期的に軍に納めていた」という一文を見つけた。
「航空戦がもっぱら『特攻』になると、特攻隊に出撃前に与えられるようになったようです。(チョコやタバコの)菊の紋章を見た特攻隊員は、天皇の期待を感じ取っただろうし、覚醒剤効果で恐怖心はかなり軽減されていたのではないか」と相可さんは推測する。
相可さんは「特攻」の実態についても触れた。「特攻隊員は出撃と同時に戦死扱いとなり、天皇に『上聞』され、『軍神』として新聞やラジオで大々的に報じられました。一方で、戻ってきたら軟禁された人や『死んで来い』と9回も出撃を命じられた人もいたのです」
相可さんは、映画監督の伊丹万作氏が記した「戦争責任者の問題」から「だまされていたと言って平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまさるだろう」という言葉を引き、「民衆にも戦争責任がある」と強調した。
相可さんには忘れられない体験があるという。生徒たちがそれぞれの役を演じ、問題の解決法を会得させる学習法「ロールプレイ」で、「日中戦争は是か非か」を判断する授業を見学した。最初は「非」の立場の生徒が圧倒的に多かった。だが「戦争はやむを得なかった」論が展開されると、逆転する。立場を変えた生徒らは「納得できた」と生き生きした表情を見せ、最後まで「非」を表明した少数の生徒たちはしょんぼりしていたという。
「『戦争はダメ』とか、『命が大事』という情緒だけでは『戦争もやむを得ない』論に説得されてしまう。それを克服するには『戦争美化論』の誤りを批判できる力をつける以外にない」と語り、そのためには「戦争体験の継承すること。悲惨な戦争をなぜ止められなかったのか、なぜ戦争をしたのかの因果関係を突き止め、克服する方法を考えることが大事だ」と訴える。
相可さんはこう語る。「特攻隊員たちは死を前に苦しんでいた。面目もあった。(果たさぬことで)家族に累が及ぶことも考えた。彼らの心情にウソはなかった。普通、命は惜しいもの。異様な興奮状態にならなければ自らの命を絶つことはできない。美談がいかに危険な論理か。特に若い人には、きちんとした歴史認識に結びつけて考えてもらいたい」
相可さんが著した冊子「『ヒロポン』と『特攻』 女学生が包んだ『覚醒剤入りチョコレート』 梅田和子さんの戦争体験からの考察」は、1冊500円。
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