福井県で昨年開かれた高校演劇祭で県立福井農林高校演劇部が上演した創作演劇「明日のハナコ」。毎年、演劇祭の模様は地元ケーブルテレビがノーカットで放送するが、この作品だけが除外された。「反原発」「差別用語が含まれている」などの理由。脚本を手がけた同高演劇部の前顧問、玉村徹さん(60)らは「『表現の自由』の侵害」だとして、撤回を求めるインターネット署名に取り組み、脚本を手にして演じる朗読劇の全国ツアーも始めた。(栗原佳子)
「明日のハナコ」は女子高生、ハナコと小夜子の2人芝居。テンポのいい掛け合いで福井県の歴史をたどる。1948年の福井大地震、朝鮮戦争の特需、次々に建設される原子力発電所、東電福島第一原発事故、放射性廃棄物が残された10万後。過去から未来へ、縦横にストーリーは展開していく。不安と闘う少女の成長の物語でもあるという。
高校演劇祭は昨年9月、3日間の日程で無観客で開催された。12校が参加、「明日のハナコ」の配役の一人は演劇祭で唯一、演技賞を受賞した。
上演翌日、撮影したケーブルテレビ側から主催者の県高校文化連盟演劇部会に連絡が入る。「明日のハナコ」の放映について、反原発、特定の個人批判、差別用語の3点について懸念があるという。引用した過去の敦賀市長の発言に含まれる「かたわ」という表現や、著名タレントの原発に関する発言を、実名を挙げて引用した部分だった。
同連盟演劇部会は演劇部の顧問会議で対応を協議。弁護士の助言を得て▽放映しない▽演劇祭で配布された脚本集は回収▽主催者撮影の記録映像も閲覧禁止などと決めた。会議では、テレビスポンサーの原発関連企業、演劇祭が受けている日本原電の助成に配慮する声も出たという。
放映中止の理由は「放送されると生徒らが中傷を受ける可能性がある」とされた。玉川さんが状況を伝えると生徒たちは「一生懸命に稽古をしてきた。放映してほしい」「どんな批判がくるかわからなくて不安だけど、この劇が間違っているとは思わない」。涙を流す生徒もいた。
玉川さんが原発を題材にしたのは初めてではない。「引用は差別的意図はない。放送中止は原発へのそんたくではないか」。顧問会議や演劇部会の会長宛に撤回の要望書を送ったが返答はなかった。
劇作家の鈴江俊郎さん(58)も協力を申し出、昨年11月、「福井の高校演劇から表現の自由を失わせないための『明日のハナコ』上演実行委員会」を結成、オンライン署名や上演の全国ツアーに取り組むことにした。鈴江さんは「私も何度も似た経験をしているので、ひとごとではありません。今後もどこかで起こりうる。高校演劇の問題ではなく、表現の自由が大きく歪められた人権問題なんです」という。
1月15日には大阪市中央区の「ウイングフィールド」で2回上演。玉村さんと鈴江さんが朗読で演じ、上演後のトークでは表現の自由や原発などについて客席と意見交換した。
実行委は全国ツアー参加団体を募集している。問い合せは090・8094・4503(玉村さん)へ。