●人員不足・過重労働で疲弊
府立の保健所は9カ所。政令市や中核市の保健所を合わせると18あるが、2000年と比べると3分の1。かつて24区全てにあった大阪市はわずか1カ所になった。
統廃合と人員削減は行革によるが、保健師削減を加速させたのが、橋下徹市長と松井一郎知事時代の12年に制定された「職員基本条例」。職員数の管理目標を5年ごとに決定することで職員を減らすもので、コロナ禍などの緊急時でも定数を増やせない仕組みだという。府職労は昨秋、保健師、保健所職員増員を求めネット署名に取り組んだ。この春、各保健所の保健師の定数が1人ずつ増えたが、定年退職者を勘案すれば減員だった。そして第4波に突入した。
各保健所には事務職員が2~3人配置され、コロナ関連の業務に追われる。Eさんは「医療費助成やアスベスト被害の救済制度など通常の事務業務に加えコロナに関わる事務作業が加わった。第4波では書類の発行が約1カ月遅れになってしまう状況。派遣職員も配置されたが、正規職員ではないと対応できない事務も多い。ある保健所で書類の送付ミスがあった。正規職員2人が一時は月140時間、実質的には200時間近い時間外労働をしていた。起こるべくして起きたミス」と訴えた。この春、事務職員の増員はなかった。
人員不足は医療現場も同様だ。コロナ患者の対応にあたってきた看護師のFさんは「緊張の連続でこの1年4カ月を過ごしてきた。重症者が増え対応が困難になったときは、誰を優先するのかという『命の選別』が始まっていると感じた。処置が優先で、患者さんのケアは後回しになってしまう。もっと患者さんの思いを聞いて対応したい、家族に会えず一人で闘っている方に少しでも力になれるようお手伝いしたい。なのにできない現状が本当に辛い」と苦悩をにじませた。
「業務内容が増えてもそれに見合う人員は増えない。現場を去っていった仲間もいたが『コロナはきっかけにすぎない』と話していた。私たちは医療者である前に感情を持った一人の人間。自己犠牲や奉仕の精神だけでは現場はよくならない。患者さんのためにもならない。安全安心の医療を提供するには、前提として安心して働き続けられる職場環境が必要。コロナ病床を確保していても、人員不足では責任を持って命を預かることはできない」
●「トップダウン」で現場混乱
府のコロナ対応に疑問を投げかける発言も相次いだ。保健師の一人は「これ以上自宅療養者が増えたらまずいので病床拡充なりホテルに医療機能をつけるなりしたほうがいいと、私たちは冬の第3波の時から言ってきた。しかし、2月に波が落ち着くと病床を削減し、ホテルも増やさず看護婦配置も進めなかった。3月中旬以降の爆発的増加に追い付かなかった。ずっと『保健所を強化した』とアピールしているが、知事も府の医療政策を統括する健康医療部長も、保健所に来たことも、何か困ったことはないかと尋ねてきたこともない。最前線でコロナ対応をする職員に聞いてから施策に落とし込んでほしかった」と苦言を呈した。
別の保健師も「知事は『スピード感を持って』と言うが、スピード感と思いつきは違う。住民や現場の声を聞いて施策化するのではなく、トップダウン。コロナ対応はまさにトップダウンの塊。現場の声を聞かずに決めていることばかりで、そのたびに現場は混乱する」と指摘した。
府職労の小松康則委員長は「現場の声を最優先にした対策をとってほしい。知事と健康医療部長は最前線の職員と定期的なミーティングを設けてほしい。こんなことすらこの1年半、全くやってこなかった。必要なのは最悪の状況を想定した備え。『想定外だった』という言葉を二度と使わずに済む態勢をとってほしい」と話した。