短大新入生に犯罪被害者講演 前向いて生きる大切さ
- 2020/7/10
- 社会
9年前に一人娘を殺害された岡山市東区の加藤裕司(ひろし)さん(67)が6月15日、同市北区の中国短期大に特別講師として招かれ、1年生61人を前に講演した。加藤さんは時おり声を詰まらせながら事件を振り返り、「どんなに困難なことがあっても、現実から逃げたり諦めたりすることなく、前向きに生きてください」と訴えた。(矢野宏)
加藤さんは学生たちに「試練に出くわしたときにどうすべきなのか」と問いかけ、「逃げると、同じ試練を乗り越えられない。正面から受け止め、努力して一つひとつの壁を乗り越えていくことが大事です」と語りかけた。
事件が起きたのは2011年9月30日のこと。当時27歳、派遣社員だった長女みささんが仕事を終えて出ようとしたところ、元同僚の男に呼び止められた。「提出した退職届に不備があって戻された。書類をみてほしい」。みささんは会社の敷地内にある倉庫へ連れ込まれ、性的暴行を受けた。「殺さんといて」と懇願したというが、ナイフで10回以上も刺されて殺害された。遺体は車で大阪市内の自宅近くの車庫へ運ばれ、バラバラにされて近くのゴミ捨て場や河川に遺棄されたという。
みささんは、交際相手から17回目のプロポーズを受けて婚約中だった。10月1日の朝になっても帰って来なかった。加藤さんは、娘は婚約者と一緒にいるのだろうと考えていた。だが、その日の夕方になっても帰宅していないことを知り、何かの事故か事件に巻き込まれたのではないかと思ったという。
「どんなに帰りが遅くなっても、必ずメールか電話で連絡してくる娘だったし、何の連絡もしないなんて考えられなかった。娘は身動きの取れない状態になっているのかもしれないと思い、警察に駆け込んだのです」
翌2日、警察から1枚の写真を見せられた。会社の防犯カメラに映った映像から撮ったもので、みささんと元同僚の男が写っていた。
「仕事も手につかない、ご飯も喉に通らない、寝ようと思っても眠れない日々が続きました。出てくるのはため息と涙だけでした」
1週間後、警察から「とても悲しいお知らせをしなくてはなりません」と切り出され、遺体の一部が見つかったことを聞かされた。