新型コロナウイルスの影響による経営悪化を理由に解雇されたり雇い止めにあったりした人が、見込みも含めて2万人を超えた。その一人、大阪市在住の朴敏用(パク・ミニョン)さん(54)は正社員として勤めていた飲食店からクビを告げられた。解雇された怒り、これからの生活に対する不安で眠れぬ夜が続いたという。失業した一時しのぎで始めた水キムチの通販が評判を呼び、少しずつ希望を取り戻している。
解雇を告げられたのは4月13日のこと。「今日で社員全員を解雇する」。社長から電話での一方的な解雇通告だった。
会社は大阪市内に6店舗の焼き肉店を展開しており、60人ほどが働いていた。「24時間営業の焼肉定食の店」が売りで、朴さんはそれまで経営していた飲食店「あらい商店」を閉じて3年半前に就職。勤務は午後11時から午前10時。2交代制の2人体制でホールやキッチンを担当していた。
2月から新型コロナの影響は出始めていたが、朴さんが勤める店は月1000万円ほどの売り上げがあり、大阪ミナミの店も多い日で200万円を売り上げていたという。
「社員やから」暗転
「まさか、正社員やから解雇されることはないやろう。それに全員解雇したら、再び店を開くことができないだろうと思っていましたから。一方的な解雇への怒りと同時に、これからどうしたらいいのか、家族を食べさせていかなければならない。息子はまだ大学生やし。54歳で再就職は難しいだろうと不安が募ってきました」
1週間前の7日に緊急事態が宣言されたのを受け、翌日には社長から電話で「しばらくの間休むけど、開けるようになったら電話を入れるから」と説明を受けていた。ところが突然の解雇。朴さんは「休業補償はどうなるのか。雇用調整助成金を活用したらどうか」などと提案したが、社長の答えは冷めていた。「窓口が混んでるし、申請して国が助成金を出すと言うてもいつになるかわからん」
さらに、東京都内を中心にタクシー事業を展開している「ロイヤルリムジングループ」が新型コロナの影響で600人の運転手を解雇する際、「休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けた方がいい」と説明した例を出し、「解雇の方がすぐに失業保険が入るからいいだろう」とも言われた。
退職金はなし。1カ月分の給料に解雇手当を上乗せした計42万円と、3月20日から4月8日までの給料を支払うと提示されたという。
休業を言い渡されてから5日間、会社は雇用を継続するための努力をしていないのではないかーー。朴さんは「解雇は無効だ」として法的手段に訴えることを決意する。他の社員にも声をかけたが、会社が再就職してくれるのではないかと期待を寄せている人も少なくない。一緒に立ち上がる人はいなかった。
「思わぬコロナの影響で経営が悪化したのだから仕方ないという使用者側の理屈を押し付けられて泣き寝入りする人も少なくないでしょうが、納得がいきません。『労働者をなめるなよ』という思いです」
厚生労働省は6月16日、新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めが、見込みも含めて12日時点で2万4660人と発表した。5日時点より4000人近くも増えており、雇用情勢が急速に悪化している実態が鮮明になっている。
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