ドイツの新型コロナ対応 素早かった減収対策

ドイツでは新型コロナウイルス拡大を防ぐため、人々の接触を減らす「接触制限措置」を3月16日から実施している。学校や幼稚園、役所、図書館、映画館、博物館、娯楽施設、飲食店、また食料品店やドラッグストアを除く小売店を閉め、国境を封鎖した。 このたび一定の成果が見られたと、4月20日から段階的に規制を解除したが、まだ先行きは不透明である。ドイツの事情をレポートする。(在独ジャーナリスト 田口理穂)

人口約8300万人のドイツでは4月19日現在14万4348人が感染し、4547人が亡くなっている。週1万6000人が検査できる体制が整えられ、症状が軽い人は自宅で療養している。

ドイツは16の州からなり、州の自治権が強い。日本の衆議院にあたる連邦議会は約700人の議員からなり、連邦参議院は各州の代表者で構成される。重要政策は国が州知事らと直接討議することもあり、今回の新型コロナウイルス対策についてもビデオ会議が幾度も行われた。国が決定した指針を各州で実施するが、州によって微妙に違う。バイエルン州は公共の場でベンチに座ることは許されず、旧東ドイツのザクセンアンハルト州は州外からの人の流れを制限している。

スポーツ教室や音楽教室も禁止となり、美容院など人と接触する職業やホテルも営業停止となっている。政府は在宅勤務を奨励し、不要不急の外出を控えるよう呼びかけている。ほとんどの飲食店は閉店しているが、州によって持ち帰りのみ営業を許可しているところもある。子どもたちが集まらないよう遊具のある公園は使用禁止だが、散歩やジョギングは許されている。他人とは1・5メートル以上の距離を開けることが義務付けられ、家族以外と会う場合は1人までとした。
これらの措置は指令であるため、罰則がある。州によっては、1・5メートル間隔を守らないと150ユーロ(1万8000円)、スポーツ大会を開くと1000ユーロ、レストランなど集まりに場所を提供すると5000ユーロという具合である。

確定申告で回収

ドイツ政府は新型コロナウイルス対策として、1560億ユーロ(約19兆円)を計上した。経済的損失を受けた人向けの「財政即刻支援金」は、5人以下の従業員を抱える個人事業者やフリーランスには3カ月分の経費として最大9000ユーロ(108万円)を支給する。従業員10人まで、30人まで、49人までに分類され、最高2万5000ユーロ(300万円)までとなっている。証拠書類は提出しなくてよいが、 後日、抜き打ち審査があり、経費の関係書類は10年間の保管が必要だ。

看護や介護職には1500ユーロの特別手当を6月に支給することを決めたほか、融資を受けにくい企業のために6000億ユーロ(72兆円)分の保証を準備する。

州や自治体の助成金もある。ベルリンではフリーランスや個人事業者は、申請すれば翌日か翌々日に5000ユーロの支援を受けることができた。3月末で打ち切りになったのは、申し込みが殺到したせいだろう。この5000ユーロは収入として換算されるため、確定申告する必要がある。とりあえず救済策として配り、収入が多くなった人からは回収するという方法である。

私の住む北ドイツのハノーファー市でも、個人事業者や中小企業向けに3000~3万ユーロの助成金を出すとして、1000万ユーロ(12億円)を用意した。しかし受け付けから5日間で2658件の申請があり、予算を超えたため打ち切りとなった。早い者勝ちであるため、不公平であるとの声も上がったが、書類審査なく早急に支給されるのはありがたい。

会社員には、仕事減で給与が減る分の60%(子なし)か67%(子あり)を国が補てんする「短縮勤務」の制度がある。これにより解雇を予防できる。金融危機の際も多くの会社が利用したが、今回も大企業から中小企業まで申請しており、3月1日までさかのぼって利用できる。適用は最大1年間だが、3カ月おけば更に1年延長できる。

レストランやバーの営業停止のあおりを受けたビール業界では、9割のメーカーが申請している。また市民が3月1日から6月30日まで生活保護を受けやすくし、家賃滞納による契約解除を禁止するなど市民生活を守る工夫がされている。

小規模店から再開

感染者は減少傾向にあるとし、メルケル首相は4月20日から800平方メートル以下の小売店の営業再開を許可すると発表した。車両販売店、自転車販売店、書店は店舗面積に関係なく開店できる。市街地の急な混雑を避けるため、まずは小規模店から開け、いずれ大型店も開店可能とする。規制の緩和についてメルケル首相は「これは中間成果であり、それ以上でもそれ以下でもない」と釘を刺し、引き続き8月末までイベントの開催禁止と接触制限を続けるとしている。

学校は4月27日から段階的に授業を再開し、あわせて自宅でオンライン授業を受けられるよう整備を進める。

知り合いのハネスは今春、4週間日本を旅行する予定だったが、結局、自宅で過ごし「どこにも出かけないで、こんなにのんびりしたのは初めて」と笑顔で話した。4週間インド旅行をしていたマリナは、ドイツへの帰国便が欠航となり、帰れなくなった。インドに5週間滞在後の3月19日にドイツ政府のチャーター便で帰国。飛行機代約500ユーロ(6万円)は自己負担だったが「周到に用意されていて、政府に信頼感を持った」と語る。

ロシア語とポーランド語の法廷通訳をしているイゴは、最近よく警察から声がかかる。休業中の店舗への窃盗が増えているためだ。家庭内暴力も増加している。ドイツ語がわからない人が犯罪を犯すと、警察や裁判所は通訳を雇うのだが、アラビア語の通訳もよく呼ばれているという。私も日本語の法廷通訳をしているが、出番はない。

日本では接触を7割減らすため、企業に一律出勤7割減を要請していると聞いたが、製造業や医療など現場を離れられない業種もあり、杓子定規に感じる。規制すべきはカラオケやパチンコなどの娯楽施設や、飲食店ではないか。政府が覚悟を決めないと、国民には伝わらない。日本での感染抑制を心より願っている。

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