「国際法的には個人の権利と国家の権利は別なので、条約で国家の権利を放棄しても、個人の権利は放棄されません。日韓請求権協定で解決済みとされたのは、国家と国家との『外交保護権』で、被害者である元徴用工の、加害者である日本企業に対する『個人の請求権』は今も有効です」
外交保護権とは、外国によって自国民が損害を受けた場合、国家が相手国の国際法上の責任を追及すること。永井さんは「これまでにも日本政府は『個人の請求権は消滅していない』と国会答弁でも表明されてきた」と指摘する。
「1991年8月の参院予算委員会で、当時の外務省条約局の柳井俊二局長が『日韓両国が国家として持っている外交請求権を相互に放棄したということであり、個人の請求権を消滅させたものではない』と明言しています」
個人の請求権は消滅していないが、法的に救済されるとは限らない。2007年4月、強制連行された中国人元労働者が西松建設に損害賠償を求めた裁判で、最高裁は「日中共同声明によって(個人が)裁判上訴求する権能を失った」と請求を棄却した。だが個人の請求権を否定したわけでなく、「この判決をもとに、西松建設は元労働者に謝罪し、和解しています」。
報復目的とも思える輸出規制に韓国がWTO(世界貿易機関)への提訴に動き出すと、日本政府は「安全保障上の理由」を持ち出す。BSフジ「プライムニュース」が5日、与党幹部の言葉を引用し、「軍事転用可能な物品が北朝鮮に渡っている懸念がある」との見方を示したことで、メディアによる韓国批判が過熱する。
「不適切な事案」が何か、明らかにされないまま、「韓国の不正輸出問題」に毅然と対処する安倍政権というイメージが作られていくなかで、「被害者に寄り添うこと」と訴える永井さん。その原点を見失うと大事なことまで見落としてしまうと指摘する。
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