奈良女子大の中山徹教授「スーパーシティ構想」の危険性を語る

大阪市廃止を問う住民投票が否決されたにもかかわらず、大阪維新の会は府への「広域行政一元化」と「総合区制度」を進める条例案を来年の2月議会に提案するという。さらに、水面下で進められているのが「スーパーシティ構想」だ。2020年最後となる「うずみ火講座」は11月28日に大阪市中央区で開講。奈良女子大教授の中山徹さんが「スーパーシティの危険性」について語った。(矢野宏)

スーパーシティとは、情報技術とビッグデータなど先端技術を活用して実現を目指す未来都市のこと。政府や自治体、企業、医療機関などが別々に持っているデータを「国家戦略特区データ連携基盤整備事業」で集約し、事業主体となった民間企業が運用する。

具体的には、キャッシュレス化やマイナンバーカードへの決済機能のひもづけ、ネットを通じた遠隔医療、ドローンによる配送、地域交通の自動走行化、習熟度に応じた遠隔教育の本格的導入などが内閣府の取り組み案として上がっている。

狙いについて、中山さんは「情報技術とビッグデータを組み合わせることで、大手企業の新たなビジネスモデルを作り出すことだ」と指摘する。「情報産業では米中が覇権争いをしている。日本企業は国際的には太刀打ちできないので、小さな地域単位で新たなプラットフォーム(物事の基礎となる土台)を作り出すことで、ビジネスチャンスを狙っている」

誰もがサービスを受けることができるのか。

中山さんは「スーパーシティで提供されるサービスは情報技術を活用したものであり、情報技術が利用できなければ、サービスも利用できない」と語り、「スーパーシティは企業主導で進めるものであり、企業が求める対価が払えない層はサービスから排除されるなど、格差が出てくる」と警鐘を鳴らす。

コロナ禍の5月に成立したスーパーシティ法には、基盤整備事業の実施主体となった企業は、国や自治体に保有データの提供を求めることができるとの規定が盛り込まれている。個人情報は守られるのか。

「あらゆるデータが一元的に収集されること自体が問題。どのように運用されているのか、個人情報を提供した市民は確認しようがない。提供され個人情報を削除してほしいと言っても、デジタルデータは一度拡散すれば削除できない」

開発が進むうめきた2期地区

情報流失の危険性もあるという。

「政府は事業者に対して、『サイバーセキュリティ対策等の安全管理基準を規定し、その順守、適合を内閣府が確認する』と言っているが、個人データの流出は過去に何度も起きている。デジタル情報なので一度流失したら取り返せない。顔認証データが流失したら、その人の行動が監視カメラで一生、追跡される」

中山さんは、「スーパーシティは新たに企業の収益をつくるのが目的だが、国家権力とつながると国民が国から監視される危険性が当然出てくる」と危惧する。

世界中のスーパーシティのモデルになると宣伝されたカナダのトロントでは、米グーグルと連携し、監視カメラで得た市民の行動記録を都市運営などに活用する計画に「監視社会につながる」と批判の声が広がり、事業撤退に追い込まれた。

内閣府によるアイデア公募に55自治体が応募した。その一つ、大阪府・市のスーパーシティ構想は3段階に分かれている。

まず、大阪市北区の再開発区域「うめきた2期地区」で最先端技術の導入に向けた試みを発信する。次に実証実験。場所は2025年の万博会場となる大阪市此花区の人工島・夢洲。自動運転による移動支援やドローンによる配送のほか、顔認証システムを導入して施設への入場やキャッシュレス決済などの最先端技術が経験できるという。

万博が6カ月で終わったあと、「夢洲でスーパーシティを実現し世界に誇る魅力ある国際観光拠点を形成する」という。つまり、カジノを誘致して夢洲を国際的エンターテインメントゾーンにしていくというのが大阪府・市の考えだ。

そのカジノ誘致は実現可能なのか。

「カジノ業者が大阪へ進出するためには、国際会議場や巨大ホテルなども建設しなければならず、1兆円以上の投資が必要となる。だが、コロナでカジノ業界の業績が軒並み悪化している。大阪進出に手を上げたMGMも計画書提出を延期した。コロナをきっかけにオンライン型カジノへ急速に変化している。大阪が計画しているカジノ誘致は、コロナ以前に計画されたもので、訪日客が伸び続けるのが前提。すでに事業計画は破綻している」

それでも、大阪府・市がスーパーシティ構想を取り下げないのは、別の思惑があるからだと、中山さんは見ている。

「このままだと、国際会議場や巨大ホテルなどを建てるという当初計画を大幅に変更することになり、カジノの隣に小さな会議室やホテルなどの『カジノビル』ができるだけ。万博に対する行政負担も拡大する。そうなれば、なぜ夢洲で行ったのかという疑問が市民から出されるだろう。巨大カジノ誘致の破綻を覆い隠すため、あたかも未来都市が誕生したかのような幻想を与えるのがスーパーシティの役割となるのではないか」

とはいえ、「情報技術の発展を否定しているのではない」と中山さん。「情報技術と高度な個人情報を結びつけ、企業の新たな収益源にしようとするスーパーシティの仕組みが問題だ」と指摘する。

さらに「情報技術の発展を生活問題の解決に結びつけられるような仕組みが必要だ」と述べ、こう主張する。

「何が生活問題を引き起こしているのかを理解した上で、活用を進めるべきではないか。情報技術を適切に活用するためには、憲法に定められた国民主権、基本的人権の尊重が不可欠だ。プライバシーや人権の侵害を許してはいけない」

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