映画「子どもたちをよろしく」 救いの手 現実のものに

元文部科学省官僚で京都造形芸術大学教授の寺脇研さん(67)が統括プロデューサーとして、これまで向き合ってきた子どもたちの実態を表現した映画『子どもたちをよろしく』が完成、注目されている。虐待やいじめ、自殺など、子どもたちを取り巻く現状は厳しさを増している。寺脇さんは「本当の貧困がここにある。一人でも多くの人に見てもらって何かしなければと感じていただければ、結果的に子どもたちが救われる」と訴えている。 (矢野宏)

映画には、寺脇さんの後輩で、夜間中学でボランティアに取り組む元文科省事務次官の前川喜平さん(65)も企画段階から参画し話題になった。 前川さんはこんな一文を寄せている。

「この作品は、中学生のいじめと自殺、その裏にある家庭の問題をリアルに描いている。とても重い映画。しかし、これは現実だ。この現実に一人でも多くの人が気づくことが大事なのだ」

舞台は東京に近い地方都市。商店街はシャッターが閉まった店が目立つ。
主人公の一人は風俗店で働く少女・ゆきな(鎌滝えり)。実母と再婚相手の義父、連れ子の中学生・稔(杉田雷麟)との4人家族。

義父はアルコール中毒で、酔うたびに家庭内で暴力を繰り返すが、対人依存症の母親は見て見ぬふりをする。そんな家庭に不満を持つ稔は、仲間たちと同級生の洋一(椿三期)をいじめていた。

洋一の父親は重度のギャンブル依存症だった。妻に逃げられ、風俗店の運転手をしながらパチンコ通いを繰り返す。店から借りた洋一の給食代や修学旅行の積立金までつぎ込んでしまい、ついには家の電気もガスも止められてしまう。そんな悲惨な生活の中で、洋一は母親が迎えに来てくれる日を待ち続けていた。

ある日、稔はゆきなの部屋の前で風俗店の名刺を拾い、姉が働いているのではないかと疑念を抱く。もし、それがばれたら自分も洋一と同じようにいじめられる側になってしまうかもしれない。稔が取った行動は……。

目をそむけたくなるシーンが多く、胸が痛くなる。ハッピーエンドの映画ではない。

寺脇さんは「フィクションだからこそ、『救い』をなくした」という。

「子どもたちが取り巻く環境が悲惨なものなのだという現実を見ることで、手を差し伸べたいと思いを抱いてもらえるのではないか」

いじめや虐待、自殺のことなど、中学生役の子どもたちとも話し合いを重ね、撮影を進めたという。納得いくまで脚本を何度も書き直した隅田靖監督はこう語っている。

「厳しい環境にある子どもたちに、大人は手を差し伸べることができるのか。アルコール依存、ギャンブル依存、対人依存など、大人社会にはびこる闇こそが問題の源なのではないのか。その問いかけを投げかけたい」

全国で順次公開が始まっている。

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