フクシマ後の原子力「『継承』で未来閉ざすな」

さらに、あろうことか「アベノミクスの第三の矢」である成長戦略の目玉に、原発輸出を据えたのである。安倍首相自らが「トップセールス」をし、日本の三大原子力メーカー(東芝、日立、三菱重工)が受注に動いた。他国で起こった事故をきっかけに、22年までに原発をゼロにするという方針を早々に決めたドイツとは、完全に真逆の方向である。事故の当事者が、その処理も満足にできないうちに他国に原発を売り込むという、信じがたい暴挙だった。結局、手がけた輸出案件はことごとく頓挫したが、当然のことであろう。その失敗の責任も、問われてはいない。

原子力に関わる安倍首相の愚行は、原発問題だけではない。17年7月、国連が核兵器禁止条約を採択した。広島・長崎の被爆者の悲願である核兵器廃絶を実現する条約に、日本は「不参加」を選択したのだ。今年8月時点で84カ国が署名し、批准した国は条約発効に必要な50カ国にあと6カ国に迫っているが、日本は署名すらしていない。毎年8月に行われる広島・長崎での原爆忌でも、安倍首相は日本を「唯一の戦争被爆国」としながら、「立場の異なる国々の橋渡しに努める」と繰り返すだけで、条約そのものには触れようとしなかった。

アメリカの「核の傘」に依存している現状から、安倍首相の姿勢はやむを得ないとする擁護者もいる。だが、過去に「核兵器の使用は違憲ではない」と発言したとされる安倍首相である。核兵器廃絶という選択肢は、彼の頭の中にないはずだ。それを願う被爆者への想いも欠落しているがゆえに、前年度の挨拶を焼き直して繰り返すような無礼も、平気だったのであろう。

福島第一原発事故は、それまでの原子力政策を見直し、社会を正しい方向に変革する機会だった。事故の教訓をもとに、社会で起こる様々な問題点を洗い出して解決策を本気で考えていたら、新型コロナウイルスに対しても全く違った対応ができたはずだ。その変革の目を、ことごとく摘み取ってきたのが安倍政権に他ならない。

菅新首相は、安倍政治を「継承」するという。彼が目指す社会像は、「自助、共助、公助、そして絆」だそうだ。「公助」のためにある政治を行う者が、真っ先に「自助」を掲げることは、福島第一原発事故の被災者を置き去りにし、原発による経済的利益を優先してきた「アベ政治」を、さらに加速させるとしか思えない。このような政権が続く限り、原子力をめぐる問題は延々と繰り返されるだろう。そして万が一、福島第一原発のような過酷事故が再び起きてしまったら、この国の未来は完全に閉ざされると断言しておく。

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