大阪市を廃止し四つの特別区に分割する「大阪都構想」の制度案が、府・市議などでつくる法定協議会(法定協)で可決された。大阪維新の会は、府・市議会の議決を経て、11月1日に都構想の賛否を問う住民投票の実施を目指す。新聞うずみ火は「『大阪都構想』を考える連続講座」を7月4日、大阪市谷町のターネンビルで開講。立命館大教授の森裕之さんを講師に招き、「『大阪都構想』と二重行政のゴマカシ」について語ってもらった。(矢野宏)
新型コロナの感染拡大を受けた2、3月の税収が2カ月で1・7兆円下がった。うち1・5兆円が法人税だという。大阪府・市は法人関係税が大きいため、他の地域よりもその影響が大きい。所得税も7000億円ほど落ち込むと言われている。にもかかわらず6月19日、法定協で、「大阪都構想」の制度案が大阪維新の会、公明党、自民党府議団の賛成多数で可決された。
森さんは「制度案には新型コロナが完全に抜け落ちています。対策もなければ、財政への影響の考慮もない。住民の暮らしをないがしろにした政治の暴挙であり、万が一、住民投票で可決されてしまえば、何年にも及ぶ大変な混乱と負担を強いられる」と指摘する。
制度案の見直しを主張するメディアはなく、吉村洋文知事の礼賛報道に終始しているのが実情だとも。
「戦前から大阪市の公衆衛生は全国のモデルだったが、どんどん縮小されて保健所が一つにされた。そこが『帰国者・接触者相談センター』の業務を負わされているのだから、遅れるのはわかっているではないか。それなのに、『吉村さん頑張っているわ』やて。大阪をぐちゃぐちゃにし、あわてふためいているのを『ファインプレーや』と言っているのと同じ。本当に上手な人間はぐちゃぐちゃになる前に処理するのです」
府に従属の4特別区 初期費用241億円
「大阪都構想」について、特徴は三つだという。
「一つは政令指定都市の『廃止』で、大阪市が地図上、歴史上からも消滅します。二つ目が大阪市の『分割(解体)』で、現在一つの自治体である大阪市は四つの特別区にバラバラにされ、それぞれ別個の自治体になります。三つ目が大阪市の府への『従属団体化』。大阪府と対等な関係にある自立した大阪市が府に権限と財源を握られた自治体に成り下がるのです」
政令指定都市は能力も金もあるため、都道府県から権限が移譲されている。都市計画、港湾、交通インフラ、産業政策、高校・大学、観光・文化・スポーツ振興などの行政権限・基盤はすべて大阪府へ奪われることになる。
当然、財源も府に持っていかれるという。
「現在、大阪市民は様々な税金を市に払っており、足りない分を国から『地方交付税』としてもらっている。『都構想』でどうなるのか。住民税はそれぞれの特別区に払いますが、法人市町村民税や固定資産税は府の税金に代わります。国から大阪市に来ていた地方交付税も府に入る。これでは特別区の行政ができないので、府は吸い上げた税をいくらか特別区へ戻すのだが、その金額を決めるのは府議会です」
つまり、旧大阪市民、四つの特別区の運命は大阪府にかかっているということ。それゆえ、府への「従属団体化」だという。
「二重行政が廃止されるからお金が浮くのではないか」という声もある。
前回の住民投票で、維新は「二重行政廃止で1000億円浮く」と言い、野党は「1億円しかない」と主張した。
森さんは「AB項目関係の改革効果額の内訳」という資料を提示し、説明した。
「Aは経営形態の見直しのこと。地下鉄が民営化になりましたが、大阪市は残っていますよね。経営形態を見直すというのは大阪市をなくすとかは関係ないのです。維新は地下鉄民営化など、二重行政とは関係ないものを積み上げて1000億円浮くと言ってきたのです」
Bは類似・重複している行政サービスのことで、森さんは「改革効果額「財政シミュレーション反映額」をみると、府の産業技術総合研究所と市の工業研究所を統合した結果が3100万円、府の公衆衛生研究所と市の環境科学研究所を統合して800万円など、府市では類似・重複している財政シミュレーション反映額は4000万円程度です」
二重行政の廃止と言いながら、特別区を作るとお金がかかる。最初に立ち上げた時にかかるお金が241億円。運営していくのに毎年30億円かかるという。
全国平均以下の成長 市解体は周辺も衰退
「維新は『大阪の成長を止めるな』と言っていましたが、伸びていたのはインバウンドです。今では風前の灯、経済はかなり厳しくなっているのに、そんなときに都構想などやっていいのか。大阪府市のGDPは最近増えているように見えますが、全国平均よりも下です。最近の伸びだけをことさら主張し、成長を止めるなと言っていますが、お父さんの給料が20万円から21万円に上がった。隣のおじさんは20万円から30万円になったという話ですよ」
「都構想」というと大阪市の問題ではないか。大阪市の財源が府下の自治体にも回ってきて潤うのではないかという声も聞こえてくる。だが、森さんは「大阪市が衰退すれば、周辺の自治体も衰退する」と否定する。
「大阪市の昼夜人口比率は東京23区以上の高さなのです。つまり、昼間に働いている人が多い自治体です。夜は周辺自治体に帰って生活している。そこで税金を払っているのです。それが、大阪市が持っていた機能でもあったのです。大阪市が衰退すると、自分が住んでいるところに税金を納めることができなくなる。つまり、大阪市と周辺自治体は運命共同体なのです。だから、ひとごとやと思っていてはいけないのです」
さらに、森さんは「大阪府が市の財源を吸い取ってやろうとしているのがIR。その経済的実態はカジノそのものです。教育や福祉ではなく、私たちの生活に直接関係するものではありません」と訴える。
では、「都構想」を止めるにはどうすればいいのか。
2015年の住民投票(投票率67%)では、維新69万で反維新が70万で僅差の勝利をつかんだ。その年の大阪市長選(投票率51%)では、維新60万で反維新40万。昨年の大阪市長選(投票率53%)でも、維新66万で反維新48万だった。
「維新応援団は60万票ほどあり、ここの人たちに何を言っても聞く耳をもちません。前回の住民投票を見ると、普段は選挙などに行かない人が行ってくれたわけです。この人たちを取り込まなければならない。投票率が上がれば反対派が勝つ可能性があります」と語り、こう締めくくった。
「次回の住民投票に反対派が勝利するためには、正しい情報をわかりやすく市民に伝え、投票所に足を運んでもらうしかありません」