新型コロナウイルス患者の専門病院となった大阪市淀川区の大阪市立十三市民病院が7月27日から一般外来の診療を再開することになった。懸念される感染拡大の第2波に備え、コロナ専用の病床90床を維持するという。コロナ専門病院となって2カ月あまりの苦悩や問題点などを、西口幸雄(ゆきお)病院長に聞いた。 (矢野宏)
発端は4月14日、医療専門家から「中等症患者の受け入れが整っていない」との指摘を受けた大阪市の松井一郎市長が、十三市民病院を中等症患者の専門病院にすることを発表した。病院全体がコロナ専門病院となるのは全国でも稀なこと。緊急事態宣言の真っただ中で、この日の新規感染者は59人だった。
事前調整もなく、病院長ら現場スタッフは、その日の夕方のニュースで知る。この時点で入院患者130人、通院患者は1日平均500人、分娩予約も280件入っていた。にもかかわらず、「5月1日に運営開始」と示され、医療スタッフは不安を抱えながら準備に奔走。患者に周辺の病院への紹介状を書き、転院調整を3週間足らずで行った。
西口病院長は「がん患者さんや出産を控えた妊婦さんには気の毒なことをしました」と振り返る。
入院患者を送り出すと同時に、受け入れ態勢も整えなければならない。病院では5階から8階までをコロナ専用として90床を確保した。インタビューした7月6日現在で入院患者は9人。これで採算はとれるのか。
三田村将光事務部長は首を横に振る。「コロナ専門病院になる前、病院の収入は月に約4億円ほどでしたが、専門病院になってからは月2000万円ほど。3億8000万円の赤字です。医師45人、看護師190人の医療スタッフもほとんど減らしていないので人件費も丸々かかる。公立病院でないとなかなか難しい」と語る。
政府は、コロナ患者の入院治療を行った病院には、診療報酬を通常の3倍に引き上げた。6月に成立した第2次補正予算では、1床あたり1日最大約30万円の「空床補償」を設けている。府でも1床あたり日額で最大12万円の補償制度を設けているが、赤字解消には足りない。
あとは市からの税金が頼りとなるが、補償額がいくらなのかはもちろん、支払われるのかどうかもまだ決まっていないという。「市議会で議論していただき、補正予算の中に組み込んでもらうことになると思います」
5月以降に受け入れた入院患者数は延べ約70人で、最も多い日で21日。1人の時もあったという。
西口病院長は「医師には『コロナの勉強をしておきなさい。チーム制で治療に当たれるようにしておきなさい』と言っており、ローテーションを組んでやっています。論文を書かせたり、何かをやらせたり、モチベーションを保つのに苦労しています」と語る。
病棟の壁には、市民からの激励の手紙やはがきが貼ってある。なかには、「マスクを1500枚送りました」という手紙も。西口病院長はすべてに返事を送ったという。