新型コロナウイルスをめぐっては、緊急事態宣言が解除された今もなお、新たな感染者の確認などを伝えるニュースが後を絶たない。一方で、外出や営業の自粛要請が緩和されるなど、社会は「コロナ後」に向けて動き出したかに見える。国内で初の感染者が確認された1月から今日までを振り返ると、新型コロナウイルスは感染の猛威をふるうと同時に、日本の社会に宿っていた病理を次々と暴き出してきたと言えるのではないか。
特に、安倍政権の対応のひどさは目を覆うばかりであった。「アベノマスク」に象徴される税金の無駄遣い、これまでの政策が招いたことが明らかな医療崩壊の危機、思い付きとしか言いようのない休校要請、自粛によって瀕死の状況に追い込まれた中小零細企業への支援の遅れ等々、枚挙にいとまがない。しかも、それらを検証し責任を追及しようにも、議事録が残されていないというありさまだ。この政権を放置しておくことは、私たちの将来にとって新型コロナウイルス以上の脅威であろう。
そうした中、耳を疑うような報道があった。福島第一原発事故の避難指示区域について、政府が除染をしていない地域でも指示を解除できるようにする方向で最終調整に入ったというのだ。
従来は除染が進んだ地域のみが解除の対象だったが、この方針が決定したら、一定の条件を満たせば除染されていなくても、立ち入りが自由になる。これまで国は、除染を行って再び居住できる地域に戻すという政策を取ってきたが、例外を認めることになるのだ。
2011年8月に公布、翌年1月に施行された放射性物質汚染対処特別措置法は、第3条で「国は、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、事故由来放射性物質による環境の汚染への対処に関し、必要な措置を講ずるものとする」としている。除染については第30条で「国は、除染特別地域について、特別地域内除染実施計画に従って、除染等の措置等を実施しなければならない」と、国の責務として明記されている。もし、除染なしで避難指示を解除するとなれば、大きな矛盾が生じてくる。
分断生む「線引き」
言うまでもなく、福島第一原発事故によって広大な土地が放射能に汚染された。そのため国は、事故直後に汚染状況と原発からの距離によって、警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域を定めた。そして、12年4月から、警戒区域・計画的避難区域を、年間積算放射線量が50ミリシーベルト以上で長期にわたって帰還が難しい「帰還困難区域」、年間20~50ミリシーベルトで20ミリシーベルト以下への除染を目指す「居住制限区域」、年間20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」の3区域に再編した。
ここで確認しておくべきことは、通常時の一般人の被ばく許容量が年間1ミリシーベルトということである。年間20ミリシーベルトという基準は、あくまでも緊急時の国際的基準(年間20~100ミリシーベルト)だ。たとえ除染を行っても、その土地は放射線管理区域(3カ月あたり1・3ミリシーベルトを超えるおそれのある場所)に相当する。本来であれば、除染の目標は年間1ミリシーベルトとすべきもの。「20ミリシーベルト以下への除染を目指す」こと自体、大きな問題だったのだ。
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