「プリズン・サークル」坂上監督に聞く 暴力の連鎖止めるため

取材許可まで6年、撮影2年ーー。島根県にある刑務所に初めてカメラが入り、対話を重ねて罪と向き合う更生プログラムに取り組む受刑者たちの姿を追ったドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」が注目を集めている。どんなプログラムなのか、罪を犯す背景には何があるのか、監督の坂上香さんに映画に込めた思いを聞いた。(矢野宏)

舞台は島根県浜田市にある官民共同運営の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」。警備や職業訓練などを民間が担い、施錠や食事の運搬はすべて自動化されている。設立は2008年。現在、犯罪傾向が進んでいない男性受刑者を中心に約1100人が収容されている。

一般の刑務所と違うのは「回復共同体」という「セラピューティック・コミュニティー(TC)」と呼ばれる更生プログラムを日本で唯一導入していること。TCでは、同じような問題を抱えた受刑者による積極的な語り合いが行われる。受講は希望制で、40人が半年から1年半、生活や刑務作業をともにしつつ、週14時間のプログラムを受講する。

「もともと日本の刑務所は処罰の場でしたが、06年に監獄法が処遇法に改正され、受刑者に更生を義務付ける項目が加わったのです。徹底した規律や管理は昔のままですが、TCは臨床心理ら民間の『支援員』が運営しています。受刑者を番号ではなく名前で呼ぶなど、学校のような雰囲気です」

映画は、おやじ狩りや特殊詐欺などで服役する4人の若い受刑者を中心に展開される。車座になって語り合う、それぞれの過去に共通するのは幼い頃に体験した貧困や虐待、いじめ、差別の記憶だった。

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坂上さんは「加害者の中には被害体験がある人が少なくない」と指摘する。

「日本では『受刑者の半数近くが虐待を体験している』と言われていますが、被害を認識できていないケースもあり、実際にはもっと多いと思います。自分がやったことが暴力と認識できていない人もいます。こうした暴力の連鎖を止めるには、彼らが加害を犯さないような取り組みが必要なのです」

犯罪白書によると、全検挙者のうち再犯者数が占める割合は48%だが、TC受講者は9・5%だという。

坂上さんは04年、米国の刑務所などでTCに取り組む終身刑の受刑者を描いた映画「ライファーズ」を制作。この映画を見た刑務所関係者がTCに関心を持ち、島根あさひ社会復帰促進センターに導入されることになった。

ただ、取材許可が下りるまで6年、撮影に2年かかった。坂上さんは「心が何度も折れた」と振り返る。「自由に撮らせてもらえないのです。映画を制作する場合、被写体と信頼関係を結ぶことが大切なのですが、目を合わせてもいけない、言葉も交わしてもいけないと言われ、インタビューが唯一、そのチャンスでした」

刑務所内では、受刑者は顔を隠さなければならず、「彼らを『人』として描くことも難しかった」という。

映画の最後で、4人の若い受刑者の1人が出所するシーンがある。モザイクのない、その若者の顔はりりしく、目が輝いているように見えた。

 

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