金光男さん「日韓対立の背景」 歴史認識近づけよう

新聞うずみ火主催の市民講座が2019年11月15日夜、大阪市此花区西九条のクレオ大阪西で開かれ、「在日韓国研究所」代表の金光男(キム・グァンナム)さんが「日韓関係悪化の原因は安倍政権の朝鮮半島敵視政策」と題して講演した。元徴用工判決から1年、金さんは「日韓対立を解消するには歴史認識を近づけること」と訴えた。講演要旨をお届けする。   (文責・矢野宏)

元徴用工判決に対する日本政府の主張を要約すると、①徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済み②韓国大法院の判決は国際法違反③韓国政府は国と国の約束を守れ――の3点。

一方、韓国政府は「司法府の判断に政府が介入しないのが民主主義の根幹だ」という立場。三権分立の民主主義社会では当然のことではないか。

国と国が請求権を放棄するということは、国民に代わって請求する外交保護権を放棄したということで、個人の請求権を消滅したことではない。だから、裁判する権利はある。

日本政府が法的基盤として主張しているのは65年に締結された日韓基本条約2条で、「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される」とあるが、「もはや」という文言の解釈をめぐって日本と韓国は180度違う見解と立場を示している。日本は「植民地支配は合法であり、10年の日韓併合条約は少なくとも45年8月の敗戦までは有効」と解釈しており、韓国は「植民地支配は不法であり、日韓併合条約は最初から無効」という立場だ。徴用工被害者が起こした訴訟は、未払い賃金、強制的に貯蓄させられた貯金を支払ってほしいという財産上、民事上の財産権を要求するものではない。日本政府の不法な植民地支配および侵略戦争の遂行と直結した日本軍需会社の「反人道的不法行為」に対する慰謝料請求で、日韓請求権協定の枠外にあるという判断だ。その意味でも、大法院判決は日韓請求権協定を否定しているわけではない。

日本政府は「請求求権協定1条で無償3億㌦の供与したのだから解決したはずだ」と主張しているが、過去の植民地支配に対する賠償ではなく、あくまでも経済協力だ。

したがって無償3億㌦は請求権問題を解決する目的で供与されたのではない。経済協力として供与したから「日韓の請求権に関する問題は完全かつ最終的に解決された」という論理は成立しない。しかも、この3億㌦は現金で供与されたものではない。請求権協定1条で「日本国の生産物及び日本人の役務」で供与され、貸し付けられると定めている。つまり、無償も合わせて5億㌦分は日本のプラントや機械、原資材などで供与され、貸し付けられた。それらの原資材などで植民地支配犠牲者に対する賠償はできない。

さらに、請求権協定1条に「韓国の経済の発展に役立つものでなければならない」と使用目的まで定められている。

日本企業の立場からすれば、5億㌦分の機械やプラント、技術などを請求権資金によって韓国に販売することができ、その代価を日本政府から受け取ったことになる。供与された機械やプラントは、対日貿易赤字の発生とその構造化の呼び水となった。

敗訴した日本企業が判決に応じるのは当然のこと。従わなければ差し押さえとなる。元徴用工の原告団は「話し合いで解決したい」と、日本製鉄や三菱重工業の本社を何度も訪ねているが、門前払いされている。日本企業が韓国に持っている資産を差し押さえ、それを現金化することになるが、来年2、3月には現金化を認める判決が出る。そうなったら日韓関係は破滅的な対立に陥る。だから、文政権は和解案を出した。日本企業だけでなく、恩恵を受けた韓国企業も基金を拠出して被害者に慰謝料を出そうというものだが、これすら日本は拒否している。日本政府は文政権が解決しろと言っているが、どうやって解決できるのか。

韓国政府はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を延長しないことを決めた。
GSOMIAの陰の主役は米国だ。日韓米の安保協力を進め、ロシアや北朝鮮に対抗したいが、最大の弱点は日韓の間に軍事同盟が存在しないこと。そのために、GSOMIAを締結させて「疑似軍事同盟」を結ばせるというのが米国の狙いだ。韓国は野党も市民団体も反対し、締結に積極的だったのは日本政府だ。2012年4月、北朝鮮が「人工衛星(光明3号)」発射したが、日本のレーダーは捕捉できず、批判を受けたためで、16年11月に合意し、朴槿恵政権時に韓国国防省で署名したことで、北朝鮮軍、北朝鮮社会の動向、核とミサイルに関する情報を共有することができた。

韓国政府がGSOMIAを破棄した理由は簡単だ。安倍政権が「韓国を安保上信頼できない国だ」と言ったからで、文政権がGSOMIAを延長すべき名分は存在しない。

GSOMIA破棄は危機ではなく機会と見るべきだ。

16年11月のGSOMIA締結から破棄決定までの情報交換は29回。そのうち、北朝鮮が6回目の核実験を敢行した17年は19件だが、南北首脳会談と朝米首脳会談の開催された18年は2件だった。3回の南北首脳会談と2回の朝米会談(+板門店会合)があったから。このように、朝鮮半島を取り巻く安保環境は大きく変わっている。
GSOMIA破棄の本質は何か。冷戦体制維持の安倍政権と冷戦体制解消を志向する文政権との対立が背景に存在している。安倍政権は、朝鮮半島を中心にする東アジアの冷戦体制を維持し、軍事力を増強してロシアや中国と対抗しようとしており、文政権は「朝鮮半島平和プロセス」の推進によって朝鮮半島の非核化と恒久的な平和体制を実現し、東アジアの未来の平和秩序を構築しようとしている。
文政権によるGSOMIA破棄は「日本とは軍事同盟を締結しない」ということだ。

日本と韓国の関係を変えることはできるのか。

最も大事なことは、歴史認識を接近させることだと思う。そのためには、身近なところで強制労働の遺跡や記憶の保存していくことだが、深刻な事態が広がっている。

例えば、15年7月に「明治日本の産業革命遺産」23施設がユネスコ世界遺産登録された。その中に、長崎県の端島、「軍艦島」と呼ばれている海底炭鉱がある。ここで122人の朝鮮人労働者が死亡したことが確認されている。ユネスコから世界遺産登録される時、日本政府に出された条件は「日本が徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」こと。だが、未だに守っていない。

過去の強制労働の遺跡・記憶が地方自治体によって消されようとしている。

求められているのは「疎通」だ。韓国では日本の平和憲法に対する共感が広がっている。「9条にノーベル平和賞を」という主張に142人の国家議員による議員連盟が発足した。平和憲法を守り、朝鮮半島平和プロセスを実現するという目標を共に抱く、日韓市民の連帯が求められている。

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