「天皇制と部落差別」著者の上杉聡さん 令和に「在り方」考える

元号は「大化」以来、248を数え、これまで中国の古典を典拠としてきたが、今回は初めて日本最古の和歌集である「万葉集」から選ばれた。

万葉集は20巻からなる日本最古の歌集で、奈良時代に成立した。約4500首の和歌が収録され、よく知られる「海ゆかば」も家持の長歌から採られている。文字は「万葉仮名」と言われ、漢字の音と訓を借りて日本語の音を表記するのに用いた漢字が使われている。

「首相は日本独自であることを強調するが、漢字は中国から伝わったもの。その漢字の一部を取ってできたのがカタカナであり、ひらがなは漢字を崩してできたもの。日本語で元号を作れと言ってもできるはずがない。すべて中国からの借りものなのですから」

令和の引用元である「初春の令月、気淑しく風和らぐ」についても、上杉さんは「中国の詩文集からの引用だ」と指摘する。

「後漢時代の学者、張衡の著名な詩『帰田賦(きでんのふ)』の一節『於是仲春、時和気清』を踏まえていると言われています。その頃の人は漢文の言い方を似せて書いたら教養人と思われていたのですから当然、中国の影響を受けています」

新元号「令和」の文字ついても「『令』は『~せしむ』と使役の意味があり、基本的には上からの命令です。令嬢や令兄など、いい意味もあるが、こびへつらうという意味の『巧言令色』、小役人と蔑視する『令吏』もある。令和とは『忖度のもとでの平和』と言うべきでしょうか」

令和を「order and  peace」と訳した海外メディアがあり、外務省が「beautiful harmony 」と伝えるよう在外公館に指示したという。
元号は紀元前2世紀に中国の前漢で生まれたとされる。「皇帝による時の支配」の考えに基づくという。現在、元号を使用しているのは日本だけ。明治からは天皇一代に一つの元号となり、天皇のおくり名にも用いられる。

元号と一体の天皇制について、上杉さんは「天皇個人も天皇制の犠牲者だから、制度としての天皇制はやめるべきだ」と主張し、二つの理由を上げた。
「一つは政治に利用され続けてきたから。藤原道長の『この世をば我が世とぞ思ふ望月の……』という和歌は、2人の娘を天皇家に嫁がせ、天皇を操作することで日本の政治を動かせるという思いを詠んだもの。戦前、戦中は軍部に利用され、戦争へ突き進んだわけです」と述べ、こう続けた。
「二つ目の理由は『家』制度だから。昭和天皇のひ孫の愛子さんには両親、4人の祖父母がおり、8人の曾祖父母がいたわけですから昭和天皇の血は8分の1しか流れていない。24代後になると1億分の1です。今の天皇は神武天皇から125代目、万世一系の血筋が脈々と続いてきたという幻想が天皇制の根本的な権威の源泉ですが、神武天皇と血はつながっていません。天皇家は男が継ぐ『家』でつながっているのです。そのために、女系が消される。男系をたどれば、神武天皇にたどれるかもしれませんが、男女男女とたどって行けば誰にたどり着くのでしょうか」

「そんな血縁幻想は部落差別へ波及している」と、上杉さんは指摘する。

「部落の歴史は平安時代にまでさかのぼります。葵祭へ天皇が行幸する際、河原人が祭りの清めを執行したのが部落発祥だと言われています。延喜式にもあるように、河原者が『不浄の者』の故をもって禁中への出入りを禁じられています。天皇の力を背景に部落差別をつくったのです。これも『家制度』が作り出す幻想であり、天皇制と部落差別は相似形なのです。部落差別をなくすには家制度をなくせばいいのです」
天皇は現在、法的にはどのような存在であるか。憲法1条に「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と書かれている。上杉さんは「天皇というのは不安定な存在。国民が『ノー』と言ったらなくなってしまうのです。憲法がもたらした天皇制の危機を乗り越えるため、採られてきたのが国民大衆への依拠だった。それゆえ、『公務』にかなりのウエイトを置いてこられた」と見ている。

 

肉体的にも限界を感じて生前退位を訴えた時、「日本会議」の幹部たちの発言を、上杉さんは批判する。

「日本会議代表委員の一人は『畏れ多くも、陛下は存在自体が尊いというお役目を理解されていないのではないか』と話し、こうクギを刺したのです。『天皇が〈個人〉の思いを国民に直接呼びかけ、法律が変わることはあってはならない』と、改憲論者が憲法をもとに『許せない』と言ったのです。他の幹部も『天皇の自由意思による退位は、いずれ必ず即位を拒む権利につながる。男系男子の皇位継承者が次々と即位を辞退したら、男系による万世一系の天皇制度は崩壊する』と解説。『退位を認めれば〈パンドラの箱〉があく』と強い危惧を表明しました。要するに、天皇制を守るために天皇個人は犠牲になれと言っているのです」

天皇自身も犠牲にしてしまう天皇制。上杉さんはこんな提案で講演を締めくくった。

「憲法に書いている人権条項を可能な限り認めていく。そういう形で天皇を限りなく人に近づけていくのです。そのとき、『万世一系の天皇』などという幻にとらわれていたことに、国民自ら気づくのではないでしょうか」

 

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